無地むぢ)” の例文
それよりも其處に持つてゐらつしやる無地むぢのハンケチのまはりに黄金きんのレースで縁取ふちどりをなすつた方がいゝかも知れませんわ。
幸福しやわせならぬことおのづから其中そのうちにもあり、おさくといふむすめ桂次けいじよりは六つの年少とししたにて十七ばかりになる無地むぢ田舍娘いなかものをば、うでもつまにもたねばおさまらず
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
法衣ころもた坊主が行列して向ふを通るときに、くろかげが、無地むぢかべへ非常に大きくうつる。——平岡は頬杖をいて、眼鏡めがねの奥の二重瞼ふたへまぶちを赤くしながら聞いてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
お濱さんは居なかつたがおなじ様に鼠色ねずみいろ無地むぢ単衣ひとへを着た盲唖院の唖者をしの男の子が二人、ぬまの岸の熊笹くまさヽが茂つた中にしやがんで、手真似で何か話し乍らうなづき合つて居た。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
無地むぢ行衣ぎやうえたやうなものに、ねずみ腰衣こしごろもで、ずんぐり横肥よこぶとりに、ぶよ/\とかはがたるんで、水氣すゐきのありさうな、あをかほのむくんだ坊主ばうずが、……あの、たんですつて——そして
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
聲をかけられたのは、三人連にんづれの女である。いづれしま無地むぢかの吾妻アヅマコートに、紺か澁蛇しぶじやかの傘をして、めかし込んでゐるが、聲には氣もつかず、何やら笑ひさゞめきながら通過ぎやうとする。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
またはかりごとなかるべからず、これたゞ初音はつねとりて、お香々かう/\茶漬ちやづるのならばことりよう。白粉おしろいかをりをほんのりさして、絽縮緬ろちりめん秋草あきぐさながめよう。無地むぢ納戸なんどほたるよう。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
最早、そらは、彼にとつて、無地むぢではなく——地も、最早空虚くうきよなものではないのだ。
無地むぢかとおもこん透綾すきやに、緋縮緬ひぢりめん長襦袢ながじゆばん小柳繻子こやなぎじゆすおびしめて、つまかたきまでつゝましきにも、姿すがたのなよやかさちまさり、打微笑うちほゝゑみたる口紅くちべにさへ、常夏とこなつはな化身けしんたるかな。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)