濁声だみごえ)” の例文
旧字:濁聲
眼をふさぎいし十兵衛は、その時例の濁声だみごえ出し、やかましいわお浪、黙っていよ、おれの話しの邪魔になる、親方様聞いて下され。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
どうせ任せたつたかつらと、田舎いなかの客の唄う濁声だみごえは離れたる一間より聞えぬ。御療治はと廊下に膝をつくは按摩あんまなり。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
父親は乏しい質草しちぐさを次から次へと飲みあげ、濁声だみごえで歌をうたひ、まれには「女」といぎたなく船底にもぐつて眠つた。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
ただそれっきりだけれ共、濁声だみごえを張りあげて欠伸の出た事まで大仰に話す東北の此の小村に住む男達の中で私に一番強い印象をあたえたたった一人の男だった。
旅へ出て (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
濁声だみごえはいよいよ濁り、調子はいよいよ割れ出し、ダンスの足踏みは盛んにあばれ出したものであります。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
灯の影にひらめく得物の光、暗にうごめく黒い人影、ののしり騒ぐ濁声だみごえ、十字鍬や、スクープや、ショーブルの乱れたところは、まるで戦争いくさの後をまのあたり観るようである。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
「いったいここはどこなんだ!」すっかり酔いのまわり切った、ろれつのまわらない濁声だみごえであった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
腕車くるまがステーションへ着くころ、がそこここの森蔭から見えていた。前の濁醪屋どぶろくやでは、あったかそうな煮物のいいにおいが洩れて、濁声だみごえで談笑している労働者の影も見えた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼の声は身体に相応ふさわしい太い濁声だみごえで、ひどい奥州訛りのあるのが、一層彼をいかつく見せた。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
と、たいらに呼びかけた左膳の濁声だみごえには、いつ炸裂さくれつするか知れない危険なものが沈んでいた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
寺田寅彦さんと云う方は御座らぬかとわめくボーイの濁声だみごえうるさければ黙って居けるがあまりに呼び立つる故オイ何んだと起き上がれば貴方あなたですかと怪訝顔けげんがおなるも気の毒なり。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
と背後で太い濁声だみごえがしたかと思うと、何時の間にか、そこには淡路研二が突っ立っていた。
オフェリヤ殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
太夫の手にもとどまらで、空にあや織る練磨れんまの手術、今じゃ今じゃと、木戸番は濁声だみごえ高くよばわりつつ、外面おもての幕を引きげたるとき、演芸中の太夫はふとかたに眼をりたりしに
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
北の方が先ず驚いたのは、主人の国経が常になく酔態すいたいをさらけ出し、だらしない恰好で何か呂律ろれつの廻らない濁声だみごえを挙げていることであったが、左大臣もそれに劣らず酔っているらしい。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
荒物屋あらものやを兼ねた居酒屋いざかやらしい一軒から食物の香と男女のふざけ返った濁声だみごえがもれるほかには、真直まっすぐな家並は廃村のように寒さの前にちぢこまって、電信柱だけが、けうというなりを立てていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
日頃内輪同様にしている二三の人の顔もそこに見えた。不断養父等の居間にしている六畳の部屋に敷かれた座布団も、大概ふさがっていた。中には濁声だみごえ高話たかばなしをしている男もあった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
心剛こころたしかなる女なれども、渠はさすがに驚きてたたずめり。狼藉者ろうぜきもの一個ひとり濁声だみごえを潜めて
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
源介は濁声だみごえで一喝した。「ところもあろうに江戸の真ん中で、女悪戯てんごうとは何事だ、くじらの源介が承知ならねえ! 俺の縄張りを荒らしやがって、いいかげんにしろ、いいかげんにしろ!」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
先刻からの続けざまの訊問に興奮して来た支倉は、独特の大きな濁声だみごえで叫んだ。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
その時にまた外の庭で、にわかに荒らかな下駄の音がして、濁声だみごえが高く起ります。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と覚えず濁声だみごえを挙げた。するとリヽーはやう/\それが聞えたのか、どんよりとしたものうげな瞳を開けて、庄造の方へひどく無愛想な一瞥を投げたが、たゞそれだけで、何の感動も示さなかつた。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
寝入りばなを石金の濁声だみごえに起こされて、一同、何が何やらわからない。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と覚えず濁声だみごえを挙げた。するとリヽーはやう/\それが聞えたのか、どんよりとしたものうげな瞳を開けて、庄造の方へひどく無愛想な一瞥いちべつを投げたが、たゞそれだけで、何の感動も示さなかつた。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
濁声だみごえひとしく、じろりお鶴にまなこを注いだ、霧はなけれど、ぼやけた奴等やつら
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
納屋の方からは、大勢の作男たちの濁声だみごえが聞こえ、厩舎うまごやの方からは、幾頭かの馬のいななく声が聞こえた。時々、下婢や下男が彼の前を通ったが、彼の姿を眼に入れると、いずれも慇懃に会釈をした。
鸚鵡蔵代首伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何を見たものか泰軒、突如、戸口へ向かって濁声だみごえをはりあげたものだ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
玄関の所で曲者は、後について来た静子を濁声だみごえで叱った。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
と覚えず濁声だみごえを挙げた。するとリリーはようようそれが聞えたのか、どんよりとしたものうげなひとみを開けて、庄造の方へひどく無愛想な一瞥いちべつを投げたが、ただそれだけで、何の感動も示さなかった。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ヒイ、ヒイヒイ!」と唐突だしぬけに奇声を放った、濁声だみごえひぐらし一匹。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
駒形一帯にひびき渡るような濁声だみごえをしぼって
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
酔った濁声だみごえを張り上げた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
予ハソウ云ッタ積リダッタガ、「早ク二階ヘ」アタリカラハ妙ナ濁声だみごえニナッテ何ヲ云ッテルノカ自分デモ分ラナカッタ。真ッ暗ナ布団ノ闇ノ中デ涙ガせきヲ切ッタヨウニパラ/\パラ/\ト頬ヲ伝ワル。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
太い濁声だみごえを一つずつしゃくりあげる。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と、浜田も私に釣り込まれたのか、矢張濁声だみごえで云うのでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
太い濁声だみごえが、闇からわいて!……。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と、聞き取りにくい濁声だみごえで云った。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)