海豹あざらし)” の例文
小さい連中は快活に駈け出して、氷のまじった汁を四方にはねかしながら、学校道具を海豹あざらし皮の背嚢はいのうの中でがらがらいわせながらゆく。
『あそこなら海豹あざらしも何千となくびはねているし、足もとには海象せいうちがねむっているんだもの。漁はたしかで、おもしろいにちがいないわ!』
僕はこの地方に十七年も来ていたが、いまだかつて海豹あざらしが老幼にかかわらず、そんな鳴き声をするのを聞いたためしはない。
氷のうえの、遠近が見定めにくいところに、狼に似たような犬をつれてのろのろうごいている漁師は海豹あざらし漁夫ともエスキモーとも受けとれた。
まるで海豹あざらしの大軍が、乗るべき潮流を待って北海の浜にひなたぼっこをしているようである。何たる奇観! なんたる異象!
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ぴきの親の海豹あざらしが、氷山ひょうざんのいただきにうずくまって、ぼんやりとあたりを見まわしていました。その海豹は、やさしい心を持った海豹でありました。
月と海豹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
海豹あざらしのやうに、極光の見える氷の上で、ぼんやりと「自分を忘れて」坐つてゐたい。そこに時劫がすぎ去つて行く。
宿命 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
『二れつさ!』と海龜うみがめさけんで、『おほくの海豹あざらしや、海龜うみがめなぞが、それから往來わうらい邪魔じやまになる海月くらげぱらふ——』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
しかし、二十五号機の姿は見えず、氷の裂け目から大きな海豹あざらしがぬつと頭を出したのには、驚かされました。
北極のアムンセン (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
そこいらの漁師の神さんがまぐろを料理するよりも鮮やかな手ぶりで一匹の海豹あざらしを解きほごすのであるが
映画雑感(Ⅵ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
月光の銀いろのかがやきの中に海豹あざらしどもが跳ねているのを彼は長いあいだ見ていたが、やがて呼んだ。
(新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
「これが、今度入りました新荷でがして」と、海豹あざらし使いのヒューリングがしきりと喋っている。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
同じ記事のなかに海豹あざらし島のオットセイの話も出ていて、これは大山猫とは全然正反対な、生めよ殖せよの極致だった。ここにあるものは生殖のための血だらけな格闘だった。
黒猫 (新字新仮名) / 島木健作(著)
動物の世界の物語であるが、この短篇集の中に若い雄の白海豹あざらしルカンノンの物語がある。
そこにだけしゃ切り立ったような黄褐色の毛がむらがり、全身はあまりにも短い滑らかな密毛に被われているために、さながら水に濡れた海豹あざらし膃肭臍おっとせいのようにヌラヌラした感があり
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
蚯蚓みみず蜈蚣むかでになったと載せ、『和漢三才図会』に、蛇海に入って石距てながだこに化すとあり、播州でスクチてふ魚海豹あざらしに化すというなど変な説だが、うじが蠅、さなぎとなるなどより推して
白髪の童顔、桃色の頸筋、白木のテーブルの上の火皿では、海豹あざらしの油が燃えている。小屋の中には、やりきれない温気と、獣脂の燃える匂いと、ぼんやりとした闇が立ちめていた。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
宿酔ふつかよい海豹あざらし恍惚うっとりと薄目を開けると、友染を着たかもめのような舞子が二三羽ひらひらと舞込んで、眉をでる、鼻をつまむ、花簪はなかんざし頭髪かみのけく、と、ふわりと胸へ乗って、掻巻かいまき天鵞絨びろうどの襟へ
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いずれも、「海豹あざらし」という同人雑誌に発表したのである。昭和八年である。
十五年間 (新字新仮名) / 太宰治(著)
海豹あざらしのように息を吐きながら、水から顔を出すと、身体にしたたる水をぬぐいもやらず、急いでテーブルのところに行き、のろわれたる作品を引っつかみ、それを猛然と引き裂きながら、つぶやいた。
こういう奥地へ行くと、私はいつも登りはスキーに海豹あざらしをつけて登るのであるが、降りはスキーを脱いで、両手に引きずりながら、直歩降をすることにしている。その方がけっきょく速いからである。
大雪山二題 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
僕はふとつた人の手を見ると、なぜか海豹あざらしひれを思ひ出してゐる。
耳目記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
巻きなだりいやつぎつぎにかさむ波の穂くら海豹あざらしの顔
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
海豹あざらしの禿げたのって感じがあります」
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「うむ、まあお前は海豹あざらしだな」
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
氷の山に海豹あざらし
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
たとい最も悪い場合を想像してみても、われわれは氷を横切って陸に近づくことも出来る。海豹あざらしの貯蔵のなかにていれば、春まではじゅうぶん生きてゆかれる。
いつかあなたは黒い大きな海豹あざらしを捕えた、それは呪文によって姿を変えさせられた人間であったが、あなたは弟子の僧たちと一緒になってその男を大岩の上で十字架にかけた
海豹 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
これは、さるところからまとめて手に入れまして……、さて、訓練にかかったところ、大変なやつが一匹いる。どうも見りゃ海豹あざらしではない。といって、膃肭獣おっとせいでもない、海驢あしかでもない。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
陽気なピロちゃんが、鮎子さんの腹の下をくぐり抜けて、筏のすぐそばで海豹あざらしのようにひょっくりと顔を出す。間髪をいれずにえらい水飛沫みずしぶきをあげながら、鮎子さんとトクさんが到着する。
キャラコさん:07 海の刷画 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
一面に海豹あざらし膃臍おっとせいでも想わせるようなヌラヌラとした密毛に蔽われている。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
海豹あざらしは頬の髭黄なり孔まろき白き頭骨づこつとなりはてにけり
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
わたしは海豹あざらしのやうに嘆息した。
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
うですな。海豹あざらし猟虎らっこです」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そうして、海豹あざらし漁猟開始期の暗い夜など、水夫らに輪番りんばんをさせるには非常に骨が折れたのであった。
海豹あざらし海象ウォーラス混血児あいのこだ。学名を“Orca Lupinumオルカ・ルピヌム”といって、じつにまれに出る。その狂暴さ加減は学名の訳語のとおり、まさに『鯨狼』という名がぴたりと来るようなやつ。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
削がれた樹の枝や海豹あざらしの毛のほそいふさや野鴨や鵞鳥がちょうの羽じくを以て仔羊の皮や巻物に聖い御言葉をかくことも出来、御言葉のなかに散らばる大きい文字をば、土の褐色にも空の青色にも輝く緑色にも
(新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
海豹あざらしのやうに來たものです。
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
「やっ、海豹あざらしじゃないか。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
そらの鳥にも、人間の眼を持つ海豹あざらしにも、かわうそにまでも
魚と蠅の祝日 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
おおい、おおいと、海豹あざらし
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
海豹あざらしのうかぶ潮漚しほなわ
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
海豹あざらしのうかぶ潮漚しほなわ
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)