本性ほんしょう)” の例文
女のす事の過半は模倣であるというのは決して女の本性ほんしょうではなく、久しい間自分をおおうようにした習慣が今では第二の性質になったのです。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
それと同時に、わたしはじぶんのおくのおくにかくれた本性ほんしょうもわかり、じぶんの天分てんぶんもわかり、じぶんが詩と近親きんしん関係かんけいにあることも知りました。
と、燕作えんさくはソロソロ狡獪こうかい本性ほんしょうをあらわして、なれなれしく竹童のびている般若丸はんにゃまるつば目貫めぬきをなでまわしながら
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これに反し風のまにまに動くやなぎは動きながらも本性ほんしょうを失わず、かつ折れることなくして、その一生をまっとうする。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
私は東京を出てから丸三年目にやっと本性ほんしょうに帰ったのであった。懐中を調べて見ると二円七十何銭しかない。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
だんだんに乱暴の本性ほんしょうをあらわして、時には気ちがいのようになって我が夫に食ってかかることもあるので、飛んだ者と夫婦になったと、陳も今さら悔んでいた。
ちいさな白鳥はくちょうは、はじめて、これによって、敏捷びんしょうな、本性ほんしょうざめさせられたのです。こののち、どんなときに、油断ゆだんをしてはならないかということをりました。
魚と白鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「でも、あなたという方は、本性ほんしょうはやっぱり親切なお方なのね、中房のお湯屋のお蒲団ふとんのお城の中にかくまわれているわたしを、わざわざ探し当てて下さいました」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
結婚けっこん儀式ぎしきがすむとまもなく、こんどのおかあさんは、さっそくいじわるの本性ほんしょうをさらけ出しました。
姐御とは言ったが、それは本性ほんしょうのこと、町道場でも武士の家にいるのだから、髪なんかもちゃんと取り上げて、それらしく割りに堅気な、しかし飽くまでえんこしらえ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
本性ほんしょうたがわぬ生酔なまえいの口は、酒よりもなめらかなり。千々岩は黙然としいる武男を流眸ながしめに見て、「○○○○、確か青物町あおものちょうの。あれは一時もうかったそうじゃないか」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
しかし一ほんとうにおこって、もととら本性ほんしょうかえりますと、どんなけものでもおそれません。
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
さて黒川孝藏は酔払よっぱらっては居りますれども、生酔なまえい本性ほんしょうたがわずにて、の若侍の剣幕けんまくに恐れをなし、よろめきながら二十歩ばかり逃げ出すを、侍はおのれ卑怯ひきょうなり、口程でもない奴
今ここにしるすまでもなきことなり、直ちに重井と泉に向かってその不徳を詰責きっせきせしに、重井は益〻その不徳の本性ほんしょうを現わしたりけれど、泉は女だけにさすがに後悔こうかいせしにやあらん
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
暫く私は門口に佇立たたずんで後姿を見送っておりますと、やがて生酔なまよい本性ほんしょうを顕して、急にすたすたと雪の中を歩いて行きました。見れば腰付こしつきから足元からそれ程酔ってはいないのです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかもこの御姫様は御気象も並々ならず御闊達ごかったつでいらっしゃいましたから、なまじいな殿上人などは、思召しにかなう所か、すぐに本性ほんしょう御見透おみとおしになって、とんと御寵愛ごちょうあいの猫も同様
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
水野は、これだけはご免だとまじめで言う、いよいよ他の者はこいつおもしろいと迫る、例の酒癖がついに、本性ほんしょうを現わしてさざえのようなやつを突きつけながら、罰杯の代にこれだと叫んだ。
遺言 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そして奸雄かんゆう本性ほんしょうを現わし、威嚇するように哄笑した。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それでも本性ほんしょうたがわず、漸次ぜんじ停留場へ近づく。
一年の計 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
月の光のなかでは、わたしはあなた自身よりも、かえってはっきりとみえたくらいでした。そのころは、じぶんの本性ほんしょうがよくわかってはいなかったのです。
城をうしない、裾野すそのの勢力をうしなった呂宋兵衛は、たちまち、野盗やとう本性ほんしょうにかえって、落ちてきながら、通りがけの部落をかたっぱしから荒らしてきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし夫唱婦和が人の本性ほんしょうに基いたものであるなら、諾冊二尊だくさつにそんあめ御柱みはしらの廻り直しもなさらないでしょうし
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
時分はよしと見た頃合に、主膳は、やはり本性ほんしょうたがわず、投げ出しておいた槍を手さぐりに拾い取って
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
本性ほんしょう露見してたたみの上でくたばりそこなったわい、と評判を立てて、もし当時アテネに新聞があったものなら、いかに当時の記者が論説やら雑報ざっぽうに忙しくかれの罪状を書き立て
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「矢っ張り本性ほんしょうたがわずだな」
一年の計 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
深くたくらんだ胸のうちも、完全に見やぶられた八風斎は、本性ほんしょうをあらわして、ごうぜんとそりかえった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本性ほんしょうのたがわぬ生酔い、人の来る足音を聞いて、それを見かけに、何かねだり事をでも言おうとする横着な奴! しかもそれが女ときては言語道断だ、と思いました。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
だが、爛酔にしても本性ほんしょうたがわない。その唸るところを聞いていると、この御簾の間を名ざしで遊びに来て、承知の上でここに人を待っている、待っているというよりは、待たせられている。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
というのは生酔なまよい本性ほんしょうにたがわずで、なにかのはずみにふと、神経を起して
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おさな子の本性ほんしょうを呼び起して、故郷に帰る心を以て、人間の本性にさかのぼるの発心ほっしんを起したものか、或いはこの世の最も罪のないものを捉えて、自分の邪悪のすさびに食糧とするつもりか
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)