りゅう)” の例文
龍泉寺の樹々も、ここの草木も、焚物たきものとして焚き尽し、立っているのは、風雨に黒くよごれた幾十りゅうかの菊水の旗ばかりであった。
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ唯一の戦争の印としては、ポーランド王スタニスワフの古王宮たるヴィヌラフ宮殿の上に、一りゅうの赤十字旗が、初夏の風にひるがえっているばかりであった。
勲章を貰う話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
先頭の陣に、毛利と浮田の旗が数十りゅう、風に吹き流れてゐるではないか。毛利と浮田はたつた今和睦してきたばかり、援兵を頼んだ覚えはないから、驚いて官兵衛をよんだ。
黒田如水 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
りゅう生絹すずし、供えものの唐櫃からびつ呉床あぐら真榊まさかき根越ねごしさかきなどがならび、萩乃とお蓮さまの輿こしには、まわりにすだれを下げ、白い房をたらし、司馬家の定紋じょうもんの、雪の輪に覗き蝶車の金具が
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
りゅうの白旗を高々と押し立ててザクザクと長蛇のごとく勇ましげに進んでいった。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
そして戻って来たかれは、染めあがったばかりの新しい旗を一りゅうそこへひろげた。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
フロスト少将の旗艦に、一りゅうの信号旗が上った。ああ大空軍の出動である。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
つまり、小胆で迷信深い犯人は、一度苦い経験を踏んで、たしかおびやかされたに違いありません。ですから、昨夜はこっそり甲冑武者を担ぎ上げて、二りゅう旌旗せいきで問題の部分を隠したと云う訳なんですよ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「いや、いや、敵の士気のさかんなことは、味方の比ではない。馬は龍の如く、人は虎のようだ、あの一りゅうの大将旗の鮮やかさが見えんか」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
廻って東門をうかがったが、同様である。内には、六文銭の旗三四りゅう、朝風に吹靡ふきなびいて整々としていた。
真田幸村 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
先頭の陣に、毛利と浮田の旗が数十りゅう、風に吹き流れてゐるではないか。毛利と浮田はたつた今和睦してきたばかり、援兵を頼んだ覚えはないから、驚いて官兵衛をよんだ。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
白黒の鯨幕くじらまく、四りゅう生絹すずし唐櫃からびつ呉床あぐら真榊まさかき、四方流れの屋根をかぶせた坐棺ざかんの上には、紙製の供命鳥くめいちょうをかざり、棺の周囲には金襴きんらんの幕……昔は神仏まぜこぜ、仏式七分に神式三分の様式なんです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
数十りゅうの営旗は、風に伏す草の如く、たちまち、赤兎馬に蹴ちらされて、ほこは飛び、槍は折れ、鉄弓も鉄鎚も、まるで用をなさなかった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旗は、錦の旗の一りゅうをかざし、ほかは弓まで袋にしていた。弓弦ゆづるなども張ッたままでおくとピンと凍ッてまま切れてしまう。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
果たせるかな、大小の敵の旌旗せいきが吹きなびいている城壁上の一角——西門の上あたりに一りゅうの白い大旗がひるがえっていた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何者か?」と、旗本たちが振りかえると、かたわらの桑畑の中を二、三りゅうの黄なる旗がざわざわとひるがえりつつ、此方へ近づいてくるのが見える。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふるびてはいるが、まだ生きていたかのような灰白色の一りゅうが、旗竿のさきにたかくひるがえった。——高氏はひとみをあげてその流動に見とれた。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
断金亭の大廂おおびさしのまえには、つねに刺繍ししゅう金文字の二りゅうの長い紅旗がひるがえり、一つには、「山東呼保義さんとうのこほぎ」一旒には「河北玉麒麟かほくのぎょっきりん」としるされていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
をくぐり、野を駈け出し、あるいは、白浪の飛沫しぶきから湧き出したものみたいに、わあっと浜辺の方から吠えかかって来る菊水の一りゅうと一隊もあった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、大衆論議の場とされている大講堂の輪奐りんかんは、はや論議のない甲冑かっちゅう刀箭とうせんに埋まり、ただ見る階廊の角に、一りゅうの錦の旗が、露をふくんで垂れていた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鬼小島弥太郎が、の旗と、日の旗の二りゅうを高々掲げていると、謙信はまた螺手らしゅの宇野左馬介に命じて
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お父上のご武運つたなく、ひとたびは織田おだ徳川とくがわのためにほろびこそすれ、まだその深岳しんがくのいただきには、甲斐源氏かいげんじはたりゅうときをのぞんでひるがえっておりまする
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ると彼方に一むら椰子林やしりんがあった。一隊の兵と数りゅうの旗が、一輛の四輪車を押し出してくる。孟獲は悪夢の中でうなされたようにあッと叫んで引っ返しかけた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彪々ひょうひょうと煙る馬車のうえに、三りゅう火焔旗かえんきをなびかせて、追撃の急速兵はたちまち関羽のまえに迫った。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを見たし、市民はまた、いままで見たことない一りゅうの錦旗も眼に見た。けれど「勅」といわれても「逆賊」と聞かされても、多くは何のことやらも分らなかった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
の十三字が、真紅の布地きれじに金色にかがやいているのと、もう一りゅうは、人も知る信玄が座右の軍旗としていた、紺地精好織こんじせいごうおりの長旗に、こう二行の金字がしるしてあるものだった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを耳にし、一番に躍り出ていたのは、宿直とのいの小笠原孫六で、築土ついじのみねに登って見ると、はや、ここを遠巻きにした軍勢の上に、一りゅうの車ノ輪の旗が、あざらかに見られた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さっそく水干をって、白布に縫い合せ、白と紫つなぎの一りゅうの旗を作らせた。そして
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが翌朝、盧俊儀ろしゅんぎは何思ったか、同勢出発という間際になって、衣裳箱の白絹を取り出してそれを旗四枚に仕立てさせ、一りゅうごとに一ぎょう墨痕ぼっこん淋漓りんりとこう書いたものである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると蒼古そうこたる転法輪寺の大屋根と、一りゅうの錦旗が見え、それから上は峰もない。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一点のもなく、一りゅうの旗も見られず、港にも部落にも、人影一つ見えないと、偵察船の者も報告して来たのに、いま見渡せば、港には陸塁水寨りくるいすいさいを連ね、山には旌旗せいきがみちみちてひるがえ
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、当座の感状と共に、預かって来た一りゅうの錦旗を高氏へ直接さずけた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
檻車を真ん中にして、七りゅうの朝旗は山風にひるがえっていた。そして、檻車の中に、揺られてくるのは、熊でもひょうでもなかった。膝を抱いて、天日におもてせている、あわれなる人間であった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お禁厭まじないさ。十二輛の貨車くるまの上に、間をおいて一りゅうずつ立てて行くんだ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あれへのぼって、物見いたせ。とくに会下山の方をよく見い。すでに、かしこには菊水の一りゅうもさっきから見えぬと申すことだったが、なおそのとおりか。さなくば、楠木勢はいまどこにあるか」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ほ。百りゅうを越すかずだな」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)