かか)” の例文
さはいへまた久留米絣をつけ新しい手籠をかかへた菱の実売りの娘の、なつかしい「菱シヤンヲウ」の呼声をきくのもこの時である。
水郷柳河 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
買いものの好きなお銀は、出たついでにいろいろなものをこまごまとかかえて、別の通りからえした顔をして家へ帰って来ていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
夫を、兄弟を、あるいは情人を送ろうとして、熱狂した婦人がその列に加わり、中には兵士の腕をかかえて掻口説かきくどきながら行くのも有った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
うまい物をぬすんで少しも自ら味わわず病猴に与え、またしずかにこれを抱いて自分らの胸にかかえ、母が子に対するごとく叫んだが、小猴は病悩に耐えず、悲しんで予の顔を眺め
その時反絵の眼には、白鷺しらさぎの羽根束をかかえた反耶はんやの二人の使部しぶが、積まれた裸体の鹿の間を通って卑弥呼の部屋の方へ歩いて行くのが見えた。反絵の拡げた両手は、だんだんと下へ下った。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
生徒は私の言った意味を何とったか、いずれも顔を見合せて笑った。中には妙な顔をして、頭をかかえているものもあった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あの挿話エピソードは誰に聞かしたつて腹をかかえるだろう、この悪戯者いたづらものはその翌日看守長から鹿爪らしく呼び出された、それはかうだ。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
不思議な動物やき人形などがお増の目にも物珍しく眺められたが、電車の乗り降りなどに、子供を抱いたりかかえたりする浅井の父親らしい様子を見ているのが、何とはなしに寂しかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
予ク公の言の虚実をためすはこれに限ると思い、抜き足で近より見れば、負傷蟹と腹をむかえ近づけ両手でその左右の脇を抱き、親切らしくかかえ上げて、そぞろ歩む友愛の様子にアッと感じ入り
宿の女中から貰った杉菜や、生椎茸をかかえて彼は山小屋の方へ登った。
旅愁 (新字新仮名) / 横光利一(著)
と節子が家の方から洗濯物をかかえて来て一寸ちょっと岸本の二階へ顔を見せた。彼女は父がこの二階で話したことを心配顔にいた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
パナマ帽に黒の上衣は脱いで、かかへて、ワイシャツの、片手には鶏の首のついたマホガニーの農民美術のステッキをついてゆく、その子の父の私であつた。
白帝城 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
子が階段を昇ると母はその後から蒲団をかかえて昇った。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
それほどにきで、き、かかえ、で、あるき、毎日まいにちのように着物きものなおしなどして、あの人形にんぎょうのためにはちいさな蒲団ふとんちいさなまくらまでもつくった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「あっはっはあはあ、そりゃ困る。」と庄亮が両手で頭を引っかかえる。やあぁとその上で手先きをみ上げる。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
しまいには皆さんが泣くような声を御出しなさると、尖った鼻の御客様は頭をかかえて、御座敷から逃出しましたのです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこでこの肥って善良な七面鳥が奥の室から廉物やすものの蓄音機を、耳環をちらちらでかかえ出して来て、窓際の小さな卓子テーブルに据えると、煤色の大きな喇叭ラッパの口を私たちの方へ差向けたものだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
お俊はお延と一緒に、風呂敷包を小脇こわきかかえながら帰った。包の中には、ある呉服屋から求めて来た反物たんものが有った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
だらしなくかかへ出されてかをりたる薄黄うすきの、赤の乳緑にふりよくの、青の、沃土えうど
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
種夫に着物を着更えさせて、電車で駒形こまがたへ行った時は、橋本とした軒燈ガスが石垣の上に光り始めていた。三吉は子供を抱きかかえて、勾配こうばいの急な石段を上った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
大きチエロ立ちかかへつつ夜はあかし押しあててきゆうのいまだしづけさ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
雨戸の外では、蕭々しとしと降りそそぐ音が聞える。雨はみぞれに変ったらしい、お雪は寒そうに震えて左の手で乳呑児ちのみごを抱きかかえながら、右の手に小さなコップを取上げた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かいかかへかやの実ひろふ朝寒し子がにもしかと一つ持たしつ
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あの大きな風呂敷包を背負って毎朝門前を通った噂好うわさずきな商家のかみさんのかわりに、そこにはまきざっぽうのような食麺麭しょくパンかかえた仏蘭西の婦女おんなが窓の下を通った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
大き籠をかかへ来ましぬ蜜柑なりいまだ馴染なじまねど友が母刀自
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
この青年が中学の制服を着けて、例の浅間土産を手に提げて、名残なごり惜しそうに別れを告げて行く朝は、三吉も学校通いの風呂敷包を小脇こわきかかえながら、一緒に家を出た。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
立ちかまへかかふるチエロは黄褐の女体なりきゆうのかいなづる胸
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
隠居は烏帽子をかかえたまま自分の部屋の方へ逃げて行った。お種もその後を追った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
目籠めがたみかかへ、黄金こがねみ、袖もちらほら
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
翌々日、相川は例の会社から家の方へ帰ろうとして、復たこの濠端ほりばたを通った。日頃「腰弁街道」と名を付けたところへ出ると、方々の官省やくしょもひける頃で、風呂敷包を小脇にかかえた連中がぞろぞろ通る。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
にくいあん畜生と、かかえた猫と
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
猫をかかえて夕日の濱を
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)