そろい)” の例文
それっというので、防護団の諸員はおそろいの防毒面をかぶった。警報班員は一人一人、石油缶を肩からつって、ガンガン叩いて駈けだす。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あの湯治階級とったような、男も女も、大島のそろいか何かを着て、金や白金プラチナや宝石の装身具を身体からだのあらゆる部分に、きらめかしているような人達が
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
夕方になって、僕は姉妹と共に東京から来るはずの叔父を停車場ステーションに迎えるべく母に命ぜられていえを出た。彼らはそろい浴衣ゆかたを着て白い足袋たび穿いていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これもおそろいの、藍色あいいろの勝った湯帷子ゆかたそでひるがえる。足に穿いているのも、お揃の、赤い端緒はなおの草履である。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
祭礼まつりそろいかな、蛤提灯——こんなのに河豚も栄螺さざえもある、畑のものじゃ瓜もあら。……茄子なすびもあら。」
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところがある日若夫婦二人そろいで、さる料理店へ飯を食いに行くと、またそこの婢女じょちゅうが座蒲団を三人分持って来たので、おかしいとは思ったが、何しろ女房の手前もあることだから
因果 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
日本間に西洋家具の一そろいが備えてあって、寝室と勉強部屋を兼ねるようにしてあったのだけれども、悦子は勉強するのにも、ままごと遊びをするのにも、応接間ですることを好み
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
またなべかま茶碗ちゃわんの類を一そろい、それからかさ履物はきものや化粧品や鏡や、針や糸や、とにかく家が丸焼けになっても浅間あさましい真似まねをせずともすむように、最少限度の必需品を土の中に埋めて置く事にした。
薄明 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ことに今夕のように、皆様がおそろいで私を歓迎して下さるのは、私にとりては実に有難い。かくもうしても、私の心情をお話しないと、有難いというのが、ただ表向おもてむきの挨拶のように聞こえましょうが……。
人格を認知せざる国民 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「さ、お前さんもおそろいにして貰おうじゃあねえか。」
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
ちがえに、十二三になる丸顔の眼の大きな女の子と、その妹らしいそろいのリボンをけた子がいっしょにけて来て、小さい首を二つ並べて台所へ出した。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
芝居の入山形段々だんだらのおそろいをも批判すべき無法な権利を、保有せらるべきものであらねばならない。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
安政四年になって銀鎖ぎんぐさり煙草入たばこいれ流行はやった。香以は丸利にあつらえて数十箇を作らせ、取巻一同に与えた。古渡唐桟こわたりとうざんの羽織をそろい為立したてさせて、一同にあたえたのもこの頃である。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
夫は大島絣おおしまがすりそろいである。殊に譲吉の妻は、彼の為に大島を買う、熱心な主張者であった。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
これは小花とそろいとは言ひ兼ねてか口籠くちごもる愛らしさ、ほんにわたしい気な事ねえ、清さんに話をするつてぼんやりしてゐてさ、話といふのも本当は大袈裟おおげさな位と、兼吉の言ひ出すを聞けば
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「いや結構ですよ。御夫婦おそろいで、お堅くっていらっしゃるのは——」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
講中なんぞのそろいらしい、目に立つ浴衣ゆかたに、萌葱もえぎ博多の幅狭はばぜまな帯をちょっきり結びで、二つ提げ淀屋ごのみの煙草入をぶらつかせ、はだけにはだけた胸から襟へ、少々誇張だけれど、嬰児あかんぼの拳ほどある
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし自分の兄共はそろいも揃って芝居好で、家にいると不断仮色こわいろなどを使っているから、自分はこの仮色を通して役者を知っていた。それから今日までに団十郎をたった一遍見た事があるばかりである。