推敲すいこう)” の例文
作者自身が一八四五年出版の彼の『物語集』にのちの刊行の準備として自筆で推敲すいこうの筆を加えたときに、書き直したものであろう。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
それでもどうしても思わしくない場合にはこれは断念放棄して、さらに第二の予選候補者を取り上げて同様な推敲すいこうに取りかかるのである。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この流行の変化は、俳諧の歴史としてはかなり重要なことで、もとは進展の興味をもっぱらとし、句ごとの推敲すいこうがおろそかだったのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
左の手に手帳を持ち、短い鉛筆の先をなめては、文章の推敲すいこうをしていた。講談本でも読むように節をつけて繰り返し自分の書いた文をよんだ。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
もとよりそれは完成された文章では有り得ないけれども、その草稿を手掛てがかりとして、観念を反復推敲すいこうすることができ、育て、整理することが出来る。
文字と速力と文学 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
推敲すいこうの時期——やや具体的にいうと、明和五年に雨月の草稿が書かれ、その後八年間、折をみて推敲に推敲をかさね、完成したのが安永五年であり
雨月物語:04 解説 (新字新仮名) / 鵜月洋(著)
推敲すいこうの時期——やや具体的にいうと、明和五年に雨月の草稿が書かれ、その後八年間、折をみて推敲に推敲をかさね、完成したのが安永五年であり
が、幾晩も電燈の光りに推敲すいこうを重ねた小説はひそかに予期した感銘の十分の一も与えていない。勿論彼はN氏の言葉を一笑に付する余裕よゆうを持っている。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
洗練推敲すいこうせるまでも反覆塗竄とざん何十遍するも決して飽きなかった大苦辛を見て衷心嘆服せずにはいられなかった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
運動不足と酒と脂肪分がたたったものだろう。当分精進。「浦島」推敲すいこうにかかった。新しい為事も始めようと思う。明日は父を訪ね石井信次を訪ねる積り。
これに増補改刪かいさん推敲すいこうを加えているうちにまた数年がたった。史記しき百三十巻、五十二万六千五百字が完成したのは、すでに武帝ぶてい崩御ほうぎょに近いころであった。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
一は全く無心の間事かんじである。一は雕虫ちょうちゅうの苦、推敲すいこうの難、しばしば人をして長大息ちょうたいそくを漏らさしむるが故である。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一、一時間に幾十百句をものするも善し、数日をついやして一句を推敲すいこうするも善し。早くものすれば放胆ほうたんかたに養ふ所あり、苦しみてものすれば小心の方に得る所あり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
こんな物を書くに、推敲すいこうも何もいらないというような高慢も、多少無いことは無かった。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
世に知られたのは、後に推敲すいこう訂正したものであろう、あるいは猿簑さるみのを編む頃か。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
千思万考、推敲すいこう百遍、ついに一辞をも見出す能わずしてその筆を投じてしまった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
もし古人の措辞が十分の推敲すいこうを経ていないものであったら、中には古人の句よりもいい句ができる場合もありそうなものでありますが、それはほとんど絶無であったのであります。たとえば
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
トルストイはその秋ただちにこの物語の筆を染め、爾来じらい四年間に、幾度となく改竄かいざん推敲すいこうを重ねた後、ようやく本篇の発表機関となった『ユリエフ記念文集』の編纂者の手に渡されたのであった。
つまり一つの和歌を作るのにうたいながらまた踊りながら作るのであります。ただ紙に推敲すいこうして書くというのではありません。実際文字の読めぬ人が素晴らしい作歌をなすのはそのためであります。
沖縄の思い出 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「もう少し推敲すいこうさせて戴きたいのですが、如何でございましょうか?」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
推敲すいこうに推敲を重ねた上、出版にもさうたう苦労がこもつてゐた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
たとえば江上の杜鵑ほととぎすというありふれた取り合わせでも、その句をはたらかせるために芭蕉が再三の推敲すいこう洗練を重ねたことが伝えられている。
俳諧の本質的概論 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
然し原稿用紙自体は思索することも推敲すいこうすることもないのに比べると、土自体には発育の力も具わっているので
土の中からの話 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
しかして後添刪てんさく推敲すいこうしてまづ短篇小説十篇長篇小説二篇ほどは小手調こてしらべ筆ならしと思ひて公にするなかれ。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
『ノートル・ダーム』の翻訳を推敲すいこうしていたからであったかも知れないが、それならばなお更、死のふちひんしてすらも決して苟且かりそめにしなかった製作的良心の盛んであったを知るべきである。
一回五六枚も書いて、まだ推敲すいこうにあらずして横にひろがった時もある。
新聞記者にはペンのスリップというものがある。時間と競争でやる仕事だから、推敲すいこういとまがない。時折飛んでもないヨタを書いてしまう。無意識不明を欠くなぞと念を入れるのも決して頭が悪いのではない。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼女らの境遇は極度に限定せられ、その趣味感覚は何よりも鋭敏であった。和歌とか消息文とか日記という類の推敲すいこうの文学が、当時以前の日本人の言語を、代表するものでなかったことは勿論である。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
一字一句の推敲すいこうもゆるがせにすべからざることなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ひとり句の推敲すいこうをしておそき日を
七百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
秦冏はこの二家の詩筵しえんにおいて枕山を見、その詩才あるを知ると共に、またその家の貧しきをあわれみ、芝山内の学寮に寄寓せしめて、日夜親しく韻語の推敲すいこうにつきて諮問しようと思ったのであろう。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
虚心坦懐たんかい沈着おちついて推敲すいこう鍜練たんれんしていられないのが当然であった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
ヨタを書いた後だから、幾度も推敲すいこうした。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
推敲すいこうを重ぬる一句去年こぞ今年
七百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
推敲すいこうは苦心なりもとより楽事らくじにあらず然れども苦悶のうちおのずからまた言外の慰楽の伴来ともないきたるものなきにあらず。文事を以てあたかも蟻の物を運ぶが如き労働なりとなす所以ゆえんわれらの到底解するあたはざる所なり。
一夕 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)