接木つぎき)” の例文
接木つぎきの古株を見るように、むかし、うまや路で見かけたとでもいう青楼の、面影をいまここに顧られるかのような店附を遺した家もございます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あなたのクズレた甘さときては、全然不手際な接木つぎきのように、だしぬけに猫の鳴声のような甘え方を見せるのだ。
三十歳 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
一ブッシェルでも大したおかねになろうというような林檎でした! しかし、この広い世界にも、その林檎から接木つぎきした木は一本だってないだろうと思います。
「それ聞いて、安心した。——如何せん、わしははや老木、わしの接木つぎきとなって、御奉公を尽してくれよ」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丁度ちやうどそれは子孫しそん繁殖はんしよく自己じこ防禦ばうぎよとの必要ひつえうまつたわすれさせられたなし接木つぎきが、おほきなとげみきにもえだにもたなくつたやうに、恐怖おそれ彼等かれらつたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
加之のみならず何事にも器用な人で、割烹れうりの心得もあれば、植木いじりも好き、義太夫と接木つぎき巧者じやうずで、或時は白井様の子供衆のために、大奉だいほう八枚張の大紙鳶おほたこを拵へた事もあつた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
一種の病的なこぶであり、一群の植物を生じた不健全な接木つぎきであり、古いゴールの幹のうちに根をおろし言語の方面にすごい枝葉をひろげてる、一つの寄生植物である。
全く科学的に考慮された接木つぎきをして、豊かな結実を可能にする方法ではなかろうか。
よもの眺め (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
何のせいか渾身こんしんに喜びが溢れてくる。私はどこの誰れとも知らない彼らみんなの幸福を心のしん底から祈らずにはいられない気持になった。接木つぎきをしたとかいう老桜よ、若返ってくれ。
祇園の枝垂桜 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
その台木がよしや柚子ゆずであっても、橙であっても、枳殻からたちであっても、それは深く問うところではない。ひとしく温州うんしゅう蜜柑を以てこれに接木つぎきしたならば、ことごとく温州蜜柑の甘美な果実を結ぶ。
自分で動かさうと思つて動かしたのではないけれど、押石おもしをとれば接木つぎきの枝がねかへる様に、俺の感情も押石の理智が除かれたから、おのづから刎ねかへつて、そのほしいままな活動を起して来たのである。
公判 (新字旧仮名) / 平出修(著)
彼等の椅子の、黒い大きい骨組に接木つぎきしたのでありました。
郷を辞し弟にそむいて身三春さんしゅん 本をわすれ末をとる接木つぎきの梅
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
生きて世に接木つぎき上手とほめられき 紫牛
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
老僧の理窟いはるゝ接木つぎきかな 重就
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
もとを忘れ末を取る接木つぎきの梅
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
林檎の嫩枝わかえだ接木つぎきした
一枝について (新字旧仮名) / 金鍾漢(著)
『犯罪論』は『法の精神』の上に接木つぎきされたものである。モンテスキューはベッカリアを生んだ。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
又六も、左の手を負傷して、肱のつがいを、接木つぎきのようにボロでまいていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もとをわすれ末をとる接木つぎきの梅
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
結婚は一つの接木つぎきである。うまくもゆけば、まずくもゆく。そういう危険は避けるがよい。しかし、つまらぬことを僕は言い出したものだ。言葉をむだにするばかりだ。
ふたを取るようにパリー市を取り去ったと想像すれば、鳥瞰的ちょうかんてきに見らるる下水道の地下の網目は、セーヌ川に接木つぎきした大きな木の枝のようにその両岸に現われてくるだろう。
彼は相変わらず接木つぎきをしたり、草を取ったり、瓜畑うりばたけおおいをしてやったりして、自分のすぐれたことやきよいことは少しも知らなかった。彼は自分の光栄については夢にも気づかなかった。
彼らは賢者のような態度をとった。絶対過激なる主義に一つの穏和なる権力を接木つぎきしようとした。破壊的自由主義に保守的自由主義を対立させ、しかも時としては珍しい怜悧れいりさをもってそれをした。
まず娼婦しょうふが土方女に接木つぎきしてできたというくらいのところだった。