さしはさ)” の例文
新字:
いやしくも歴史家たる身分にそむかないやうに、公平無私にその話をするだらうと云ふことには、恐らくは誰一人疑をさしはさむものはあるまい。
十三時 (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
ガラツ八と錦太郎はゴクリと固唾かたづを呑みました。事件のあまりに不思議な展開に、考へることも、異議をさしはさむことも出來なかつたのです。
福田氏の抄本を見るに、「十月」のかたはらに「原書のまま」と註してある。按ずるに福田氏も亦此「十」字に疑をさしはさんでゐるらしい。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
吾々の此の日常生活というものに対してうたがいをもさしはさまず、あらゆる感覚、有ゆる思想を働かして自我の充実を求めて行く生活、そして何を見
絶望より生ずる文芸 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なんでも自分に千万無量の奇蹟や、意外の出来事が発見せられるやうに思つて、其間に何の疑をもさしはさまなかつた。己は忽然こつぜん強烈な欲望を感じた。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
併し自分がさうした人になつてゐると云ふ事には疑をさしはさまない。自分の目で見た奇蹟をば、自分も信ぜずにはゐられない。
それと同じく、小さなる感情をさしはさむ人には、いかに善きことも、いかにだいなることも、けっして真の性質を会得えとくしえない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
おもへば臆病おくびやうの、ふさいでや歩行あるきけん、ふりしきるおとこみちさしはさこずゑにざツとかぶさるなかに、つてはうとふくろふきぬ。
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
為永春水ためながしゅんすいの小説を読んだ人は、作者が叙事のところどころに自家弁護の文をさしはさんでいることを知っているであろう。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
三つ四つ食臺をつなぎ合せた上に、一齊に濃い湯氣を立てゝ居る牛鍋を兩側からさしはさんで、口も箸も忙しく動いた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
ふびんなリツプは、何んにも悪意はさしはさまず、唯だ何時も此処に来る、近処の知己ちかづきを捜しに来たと答へました。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
たといそれがやむにやまれぬ慨世がいせいのあまりに出た言葉だとしても、天子をさしはさむというはすなわち武家の考えで、篤胤の弟子でしから見れば多分に漢意からごころのまじったものであることは争えなかった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし私心をさしはさまずに議論を闘はすことの出来る相手は滅多に世間にゐないものである。僕はその随一人を谷崎潤一郎氏に発見した。これは或は谷崎氏は難有ありがた迷惑であると云ふかも知れない。
イワンは己のくちばしさしはさんだのを不快に思つたと見えて、叫ぶやうに云つた。
お祖父さんは今日も例の通り荒川さんと碁盤をさしはさんで坐った時
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そうして少しも疑念をさしはさんでおらんように見えた。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たれか云ふ さしはさむ所無しと
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
要するに二世瑞仙霧渓の時に至るまでは、京水が錦橋の実子たることに異議をさしはさむものはなかつたのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
日本にはまだクーレンカンプの真価に疑いをさしはさむ人も少くないようであるが、試みにベートーヴェンの『ヴァイオリン協奏曲』を取って、クライスラーなり、シゲティーなり
つき世界せかいれば、に、はたに、山懷やまふところに、みねすそに、はるかすみく、それはくもまがふ、はたとほ筑摩川ちくまがはさしはさんだ、兩岸りやうがんに、すら/\と立昇たちのぼるそれけむりは、滿山まんざんつめたにじにしきうら
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
武家の学問は多分に漢意からごころのまじったものだからである。たとえば、水戸の人たちの中には実力をもって京都の実権を握り天子をさしはさんで天下に号令するというを何か丈夫の本懐のように説くものもある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
元来わたくしの所謂いはゆる誤謬は余りあからさまに露呈してゐて、人の心附かぬ筈は無い。然るに何故に人が疑を其間にさしはさまぬであらうか。わたくしは頗るこれを怪む。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)