指尖ゆびさき)” の例文
指尖ゆびさきほどの小さな花ではあるが、光に透いて見える濃い紫が如何いかにも鮮かで、じめじめした暗鬱な周囲に美しい調和を与えている。
松風の門 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「やれ、それでこっちも、安心した」と笑いくずれている間に、お綱は細い指尖ゆびさきへ、加留多カルタの札を四、五枚取ってながめていた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その一本のふくらはぎの膝から下に、むくむくと犬だか猫だか浅間しい毛が生えて、まだ女のままの指尖ゆびさきけもの鰭爪ひづめかがまって縮んでいる。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
姫たち声を併せて笑ふところへ、イイダ姫メエルハイムがひじ指尖ゆびさき掛けてかへりしが、うち解けたりとおもふさまも見えず。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
須永先生は短い口髯を指尖ゆびさきでもみながら静かに傾聴けいちょうされましたが、私の言葉が終ると、低い声で軽々かろがろと笑って
三角形の恐怖 (新字新仮名) / 海野十三(著)
愚助は指尖ゆびさきで、雲の恰好かつかうを教へて置いて学校へ行きました。そして一日何にも覚えないで帰つて来ますと、画家さんは大きな紙に、立派な壺の絵を描いてありました。
愚助大和尚 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
丸顔で、眉と目とのあいだがひろく、一重瞼の目がいささかれぼったい。指尖ゆびさきでつまみあげたような、ちんまりとした小さな鼻。色が白く、口紅のほかにはお化粧のあとのない肌。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
お絹は滑らかなくびの奥で、喉頭こうとうをこくりと動かした。煙るような長いまつげの間からひとみを凝らしてフォークに眼をり、瞳の焦点が截片にあたると同時に、小丸い指尖ゆびさきを出してアンディーヴをつまみ取った。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
固くちゃんとしているので、指尖ゆびさきにかからない、絹布にしわを拵えようと、つねるでもなく、でるでもなく、つまさぐって莞爾にっこりして
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と千浪は乱菊模様の金糸を一本抜いて、爪紅をした綺麗な指尖ゆびさきへ巻いたりほぐしたりしながら、襟足まで紅淡あかうすくした。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わかってよお祖父さん」おせんは指尖ゆびさきで眼を拭きながら頷いた、「……そんな話を聞かなくったって、あたし杉田屋へお嫁になんかいかないわ、だって」
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
小僧は旨く首を抜き出して、指尖ゆびさきで鳥の尻を引っ張って見て、「死んでも放しゃあがらない」と云った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
もし一本の指でその辺を軽く押したとすると、最初は軟い餅でも突いたかのようにグッとくぼみができるが、やがてその指尖ゆびさきの下の方からみほぐすようないどんでくるような
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
女は片手拝かたておがみに、白い指尖ゆびさきを唇にあてて、俯向うつむいてきょうを聞きつつ、布施をしようというのであるから
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お上さんはほそ指尖ゆびさき上框あがりがまちいて足駄を脱いだ。そして背中の子をすかしつゝ、帳場の奧にかくれた。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
柿丘は右手の指尖ゆびさきでもって、押釦をグッとおしこんだ。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
恍惚うっとりながめていますと、畳んだ袖を、一つ、スーとしごいた時、たもとの端で、指尖ゆびさきを留めましたがな。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
梅子は枝豆の甘皮あまかわ酸漿ほおずきのやうにこしらへ、口の所を指尖ゆびさきつまみ、ぬかに当ててぱちぱちと鳴らしてゐる、そこへ下より清さんがおいでですとの知らせと共に、はしごを上り来る清二郎が拵は細上布ほそじょうふ帷子かたびら
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
柿丘はホッとして押釦おしボタンから指尖ゆびさきを離した。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と頭巾を解き、さっあらわれた島田の銀の丈長たけなが指尖ゆびさきとともに揺れると、思わず傘を落した。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おもむろに下す指尖ゆびさきタステンに触れて起すや金石の響き。
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
(椅子を落つ。侍女の膝にて、袖を見、背を見、手を見つつ、わななき震う。雪の指尖ゆびさき、思わずびんを取ってと立ちつつ)いいえ、いいえ、いいえ。どこも蛇にはなりません。、一枚も鱗はない。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おもむろにおろ指尖ゆびさき木端タステンに触れて起すや金石の響。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)