成金なりきん)” の例文
出張成金なりきんめとか、奥さんがかおをゆがめて、何々さんは出張ばかりで、——うちなんか三日の出張で三十円ためてかえりましたよ。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「うちのような貧乏人びんぼうにんにゃ、三十えんといやたいしたかねがまうが、利助りすけさんとこのような成金なりきんにとっちゃ、三十えんばかりはなんでもあるまい。」
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
そばへ寄るな、口が臭いや、こいつらも! 汝等きさまらは、その成金なりきんに買われたな。これ、昔も同じ事があった。白雪、白雪という、この里の処女だ。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寛斎も今は成金なりきんだと戯れて見せるような友だちを前に置いて、半蔵は自分の居間としている本陣の店座敷で話した。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
牧畜経営に一かく千金の夢もさめ、大小の開港場成金なりきんは横浜に簇生ぞくせいしていたが、父には失意の時代であったようだ。
いったい物持というやつが癪にさわる、成金なりきんになったようなつらをしやがって、我々共が食うに困る時に、高い金を出して羅紗らしゃなんぞを買い込みやがる。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何せ相手がグリーンランドの途方とほうもない成金なりきんですから、ありふれたものじゃなかなか承知しないんです。
楢ノ木大学士の野宿 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
君は斎藤と正式に結婚したけれども、財産は手ばなさなかった。戦後成金なりきんだった君のなくなったお父さんに譲られた財産は、君自身のものとして頑固がんこに守っていた。
断崖 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そりや新聞に出てゐた通り、南瓜かぼちや薄雲太夫うすぐもだいふと云ふ華魁おいらんれてゐた事はほんたうだらう。さうしてあの奈良茂ならもと云ふ成金なりきんが、その又太夫たいふに惚れてゐたのにも違ひない。
南瓜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
無学な鉱夫あがりの成金なりきんだなぞということから、胡砂こさふく異境にとついだ「王昭君おうしょうくん」のそれのように伝えられ、この結婚には、拾万円の仕度金が出たと、物質問題までがからんで
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
殊に戦後の成金なりきん時代——成金という言葉はこのとき初めて出来たのである——は、種々の意味において一般の人心を絢爛けんらんにしてかつ贅沢ぜいたくなる歌舞伎劇の方面にひき付けたので
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この総理指導の下にもっぱら飯の食えない教育を受けた私達同級生七名のうちから、うした間違か、成金なりきんが一人出ている。一時は素晴らしい勢で、学園へ十七万円の講堂を寄附した。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
グレンディニングという若い成金なりきんの貴族——人のうわさによるとヘロオデス・アッティクス(9)のような金持で——また彼の富はそのようにたやすく手に入れたものだそうであった——が
「あの人こそ先生、かいもく行方ゆくえ不明ですわ。なんでも戦時中、成金なりきんさんにうけだされて出世したといううわさもありましたけど、どうせ軍需ぐんじゅ会社でしょうから、今はどうなりましたか……」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
……いずれを見ても成金なりきん華族の応接間をそのまま俗悪な品物ばかりである。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
(鉱山成金なりきんだったのか?)帆村探偵ときたら、仕事を自分に頼んでおきながら、これから働かせる家の主人公がなにを商売にしているかも教えなかったんだ。お紋がこれだけしゃべれば、もういい。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
金鉱が発見されてからは、成金なりきんを夢見る山師たちが、鶴嘴つるはしをかついで、ほうほうたる髯面ひげづらを炎熱にさらして、野鼠の群のように通行したところで、今では御伽話おとぎばなしか、英雄譚えいゆうたんの古い舞台になっている。
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
成金なりきんになり得るかも知れぬからしっかり読むべし。
これではまるで、そこらにたくさんある当り前の成金なりきんと少しも違っていないのですもの。けれども私は、あなたに悪くて、努めて嬉しそうに、はしゃいでいました。
きりぎりす (新字新仮名) / 太宰治(著)
どうも少し引き受けようが軽率けいそつだったな。グリーンランドの成金なりきんがびっくりするほど立派な蛋白石たんぱくせきなどを、二週間でさがしてやろうなんてのは、実際少し軽率だった。
楢ノ木大学士の野宿 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そのつき正面しやうめんにかざつて、もとのかゝらぬお團子だんごだけはうづたかく、さあ、成金なりきん小判こばんんでくらべてろと、かざるのだけれど、ふすまははづれる。障子しやうじ小間こまはびり/\とみなやぶれる。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
成金なりきんのお客にやこれがわかる——そこは亜米利加アメリカで皿洗ひか何かして来ただけに、日本の芝居はつまらないとあつて、オペラコミツクのミスなんとかを贔屓ひいきにしてゐると云ふ御人体ごにんていなんだ
南瓜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それはおなじ九州のある豪家へ武子さんがばれた時には、何千円かを差上げて来ていただいたというのに、我家わがやへは無償でこられるということより何より、それほどの人にわが成金なりきんぶりと
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
此奴が現在の成金なりきん赤羽君あかばねくんだった。猪股先生は私達を紹介して
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「さあ、おれも成金なりきんだぞ。」
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)