慈姑くわい)” の例文
この身動みじろぎに、七輪の慈姑くわいが転げて、コンと向うへ飛んだ。一個ひとつは、こげ目が紫立って、蛙の人魂ひとだまのように暗い土間に尾さえく。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その野菜というのが蓮根だの、慈姑くわいだの普通煮て食べる種類のものを、ただ皮を剥いただけで、ざくざく輪切りにしたものでありました。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「だってあのこのごろ来た女中。——まるッきし分らないんだ、話が。——よッぽど慈姑くわいのきんとんに出来上っているんだ。」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
その時木で押えておかないと、白水の外へ出た所が黒くなります。湯煮た蓮根を塩とお砂糖で煮たのです。そっちの慈姑くわいの揚物はどうです。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
平常いつもと違って客はないし、階下した老婢ばあさん慈姑くわいを煮る香ばしい臭いをききながら、その夜くらい好い寝心地の夜はなかった。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
懐古と考証とにふけっているので、世上の紛々たる毀誉きよの如きは、あえて最初から慈姑くわいの頭の上には置いていないのです。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
満月の輪廓りんかくはにじんでいた。めだかの模様の襦袢じゅばん慈姑くわいの模様の綿入れ胴衣を重ねて着ている太郎は、はだしのままで村の馬糞ばふんだらけの砂利道じゃりみちを東へ歩いた。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
青物もやはり奥へゆけばゆくほどうず高く積まれている。——実際あそこの人参葉にんじんばの美しさなどは素晴すばらしかった。それから水にけてある豆だとか慈姑くわいだとか。
檸檬 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
その「煙のビスケット」が生物のように緩やかに揺曳ようえいしていると思うと真中の処が慈姑くわいの芽のような形に持上がってやがてきりきりと竜巻のように巻き上がる。
喫煙四十年 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
喜助はすばやく二杯、手酌であおり、膳の上にある鉢の中から慈姑くわい甘煮うまにをつまんで口へほうりこんだ。
ちゃん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その中に大沼枕山は豆腐を好み、毅堂は慈姑くわいの苦味をたしなんだと言っている。毅堂が壮年の頃より茗茶と菜蔬とを嗜んだことは、嘉永四年北総結城にあった時の詩賦にも見えている。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
玉菜たまな赤茄子あかなすねぎ玉葱たまねぎ大根だいこんかぶ人参にんじん牛蒡ごぼう南瓜かぼちゃ冬瓜とうがん胡瓜きゅうり馬鈴薯ばれいしょ蓮根れんこん慈姑くわい生姜しょうが、三つ葉——あらゆる野菜に蔽われている。蔽われている? 蔽わ——そうではない。
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして非常に美味な蓮根れんこん、鋭い扇形に切ったウォーター・チェスナット〔辞書には菱とあるが慈姑くわいであろう〕、緑色の海藻でくるくる捲いて縛った魚、切った冷たい玉子焼、菓子、茶
八寸に載って出た慈姑くわいをひょいとはさもうとして、箸の間から落した拍子に、慈姑がれ縁から庭にころげて、青苔あおごけの上をころころと走って行ったのには、悦子も大人達も声を挙げて笑ったが
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
濡れた慈姑くわいを掴んだまま、夢中で後の貸席へ入っていってしまった日のことを、すべてがもう遠い昔のことになってしまったのだ、今の幸せなこの俺にとっては……とまた今更のように考えて
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
慈姑くわいならうまいと思います。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
根を掘上げたばかりと思う、見事な蓮根がさく内外うちそと、浄土の逆茂木さかもぎ。勿体ないが、五百羅漢ごひゃくらかん御腕おんうでを、組違えて揃う中に、大笊おおざる慈姑くわいが二杯。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朝の副食物が味噌汁へ小さき蕪菁かぶの実三個を入れたるものと煮豆が小皿一杯、昼食が小さき八つ頭芋一個と蓮根が長さ三寸ほど、慈姑くわいが六個の煮たるもの
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
全く下へも置かず、頭の慈姑くわいつまみ上げんばかりのもてなし。道庵としては全く初めてのふりのお客である。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一軒の小さな八百屋やおやがあって、あかる瓦斯ガスの燃えた下に、大根、人参にんじんねぎ小蕪こかぶ慈姑くわい牛蒡ごぼうがしら小松菜こまつな独活うど蓮根れんこん、里芋、林檎りんご、蜜柑の類がうずたかく店に積み上げてある。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
懸茶屋かけぢゃやには絹被きぬかつぎの芋慈姑くわい串団子くしだんごつら栄螺さざえの壼焼などをもひさぐ。百眼売ひゃくまなこうりつけひげ蝶〻ちょうちょう花簪はなかんざし売風船売などあるいは屋台を据ゑあるいは立ちながらに売る。花見の客の雑沓狼藉ざっとうろうぜきは筆にも記しがたし。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
慈姑くわいの泥を洗っていた手をやめて次郎吉は訊ねた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
庭の土を掘っていたら慈姑くわいが出て来た。
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
道庵先生は、慈姑くわい頭を振り立てて印度人の恰好かっこうを横から見、縦から見ていましたが
○梅干あえを衣にして中へ栗、慈姑くわい、蓮根その他種々の物を入れてよし。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「湯葉屋——坊主になりそこなった奴の、慈姑くわいと一所に、大好きなものだよ。豆府の湯へ箱形の波を打って、皮が伸びて浮く処をすくい上げる。よく、東の市場でのぞいたっけ。……あれは、面白い。」
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
竜之助も驚いて見ると、慈姑くわいのような頭をした医者が一人、泥のように酔うて
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
よく、その慈姑くわい咽喉のどに詰って、頓死とんしをしなかったよ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
慈姑くわいのシンジョ 夏 第百三十七 玉子麩たまごぶ
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
但しその道庵先生でないことは、頭が慈姑くわいでなく、正雪まがいの惣髪そうはつになっている。道庵先生よりもう少し色が黒く——皮肉なところは似ているが、あれよりまた少々下品になっている。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
慈姑くわい揚物あげもの 春 第八十五 軽い鍋
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
慈姑くわい金団きんとん 夏 第百五 世の流行
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)