慄然ぞつ)” の例文
別れる? ああ! 可厭いやだ! 考へても慄然ぞつとする! 切れるの、別れるのなんて事は、那奴あいつが来ない前には夢にだつて見やしなかつたのを
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ふたツもみつツも。わたしなにはなすのだらう、わたしなにはなすのだらう、とりがものをいふと慄然ぞつとして慄立よだつた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
自分じぶんかせめられて、おな姿すがた泥濘ぬかるみなかかれて、ごくいれられはせぬかと、にはかおもはれて慄然ぞつとした。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
然し、私は日本酒だけは、どうしても口にする気がしないです……香気にほひを嗅いだ丈けでも慄然ぞつとします。
一月一日 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
道臣は足音をぬすんで近づいて行くと、其處の大きな杉の幹へ、蝉のやうにピタリとくツ付いてゐるのは、寢衣姿の京子であつたから、道臣は慄然ぞつとして棒のやうに突つ立つた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「しかし能く来てくれたね。まさか君が今頃来ようとは思はないもんだから、ふつと顔を見たときには、君の幽霊か、僕の目のせゐでまぼろしが映つたのかと思つて、慄然ぞつとしたよ。」
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
引たりける此時は天一坊は既に玄關迄來りしが向のかべに懸し笈摺おひずりを見てさすが大膽不敵の天一坊なれど慄然ぞつと身の毛よだち思はず二足三足跡へ退しりぞくを見て取越前守大音に寶澤待と聲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しまひにはあの『ざまあ見やがれ』の一言を思出すと、慄然ぞつとするつめた震動みぶるひ頸窩ぼんのくぼから背骨の髄へかけて流れ下るやうに感ぜられる。今は他事ひとごととも思はれない。あゝ、丁度それは自分の運命だ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「名を聞いても慄然ぞつとする? さう、大きにさうだ。けれど、又考へて見れば、あれに罪が有る訳でも無いのだから、さして憎むにも当らんのだ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
してたれない八畳はちでふ真中まんなかに、双六巌すごろくいはたと紫縞むらさきじま座蒲団ざぶとん二枚にまい対坐さしむかひえてつたのを一目ひとめると、天窓あたまからみづびたやうに慄然ぞつとした。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これ現實げんじつふものか。』アンドレイ、エヒミチはおもはず慄然ぞつとした。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それを襖の隙間から覗いた竹丸は、慄然ぞつとして、お駒から聽いた化猫の話が、いよ/\確められたやうな氣がした。道臣は袴も脱がずにそつと竹丸を小手招きして、便所の横の戸棚の前へ連れて行き
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
慄然ぞつとするほど厭であつた。
花が咲く (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「あのときことはおわすれなすつてくださいまし……思出おもひだしても慄然ぞつとするんでございますから……」
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いやさう言れると慄然ぞつとするよ、実はさつき停車場ステエションで例の『美人びじクリイム』(こは美人の高利貸を戯称せるなり)を見掛けたのだ。あの声で蜥蜴啖とかげくらふかと思ふね、いつ見ても美いには驚嘆する。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
おもはず、かたからみづびたやうに慄然ぞつとしたが、こゑつゞけて鳴出なきだしたのはふくろふであつた。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ふのもこゑふるふ、坂上さかがみまた慄然ぞつとした。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
わたしなんとなく慄然ぞつとした。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
唯吉たゞきちまた慄然ぞつとした。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)