弱音よわね)” の例文
「どうして、今日に限って、そんな弱音よわねをおふきになるんです。兄者人からして、お気を挫いたんでは、士気はどうなりましょう」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私はめったにない弱音よわねをはいた。その苦しさがゆうべからのとちがってきた。身動きするのも息をするのも苦しい。そんな風で一夜があけた。
胆石 (新字新仮名) / 中勘助(著)
「ずいぶん弱虫だなあ、大辻さんは。僕の何倍も大きなからだをしているくせに、そんな弱音よわねをはいて、それでよくも、はずかしくないねえ」
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、壱岐殿坂時代となると飛白の羽織を着初きだして、牛肉屋の鍋でも下宿屋の飯よりはうまいなどと弱音よわねを吹きした。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「あの男でさえあんな目にあって来たんだから、おれなんか問題にならない。」と弱音よわねくものも出て来た。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
「G街の英雄が弱音よわねをはくわね。なんにも聞かないって約束じゃないか。僕を信用しないとでもいうの?」
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ようやくのことで弱音よわねを吐き出した時分は、もう真夜中で、彼等としては、こうも行ったら、ああも戻ったらという、思案と詮術せんすべも尽き果てたから、鈍重な愚痴を
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「死ぬのは何でもないさ、いつだつて死ねる。こゝまで来て、弱音よわねを吐く奴があるかツ」
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
蹴散し洒落しやれ散したれ坂下驛さかもとえきを過るころより我輩はしばらくおい同行どうぎやう三人の鼻の穴次第に擴がりく息角立かどたち洒落も追々おひ/\苦しくなりうどの位來たらうとの弱音よわね梅花道人序開きをなしぬ横川に滊車を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
そういわれたので、達夫たつおくんはかおあかくなりました。なぜなら、ごろから自分じぶんつよいのだと自信じしんしているだけに、いまさらはずかしくもできないなどと、弱音よわねをはきたくはなかったからでした。
つじうら売りのおばあさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
……なかなかうまい理窟りくつを云うじゃないか?……そりゃ、君が逃げ出したって、後指うしろゆびをさすものは世の中に俺と石ノ上の二人しかいないからな。だけど、俺は断言するぞ。貴様のはそりゃ弱音よわねだ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
弱音よわねを吹くと、タヌは、情けなそうにコン吉をみつめてから
なんぢや 科学者くわがくしやの子がそんな弱音よわねいて
「——いつにない其許そこ弱音よわね、正成がまいっても勝目がないとは、なんとしたことばだ。しかも君前くんぜん、しかも今日の出陣を前に」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしもう決心したことだから、途中でもって、「この綱をひき上げてくれ」などと弱音よわねがあげられたものではない。
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「大丈夫、大丈夫。その元気ならマタ一年や二年は大丈夫。字引はどうでもいが、病気の方は大丈夫だよ。今から开んな弱音よわねを吹くのは愚だ。きっとなおると思わにゃ駄目だ。」
二十面相は頭をかかえて、弱音よわねをはきました。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「どうしても、二十日には、顔を出さねばならないかな。俺が出れば、弱音よわねはふけぬ。自分の火が、村を何十ヵ村も、火にしてしまうが——」
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、誰もこのへんでもときた方へ引返そうなどと弱音よわねをふく者はなかった。そうでもあろう。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一体が負け嫌いの病気に勝つ方で、どんなに苦しくても滅多に弱音よわねを吹かなかった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
喧々けんけんと争って、彼の顔のそばまで顔を持って来て吠えたり、そろそろ足の先からめ始めて来たりしたので、又八は、ここで弱音よわねを揚げてはと思い
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もうこのへんでへたばって声をあげようと思ったこともたびたびであった。しかし自分が弱音よわねをはいては、他の二人をがっかりさせると思い、歯をくいしばってがんばった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「そうだとも。そっちが弱音よわねをふいたひにゃ、この久助なざ、なおのこと、ここらでお別れと願いたくなッちまう」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大辻は岩の靴型を握る手を震わしながら、いよいよ本音の弱音よわねきだした。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
奉行の口からなどいえないはずの弱音よわねである。しかも割腹して責任をとろうとまで思いつめている彼として。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これがつい、いましがた、今宮いまみや境内けいだい修羅しゅらにしてあばれまわった男とは、思えぬような、弱音よわねである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だのに、正成が鬱陶うっとうしそうな片眼をすこし細めながら、始終、抑揚よくようのない低声で弱音よわねにも似るようななだめを言っているのを聞くと、どうもせっかくな意気も沈んでしまう。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「このになって、なんたる弱音よわねをはき給うことか。曹操の人間はご存じであろうに。——今、彼の甘言にたばかられて、降伏したが最後、二度とこの首はつながりませんぞ」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の諄々じゅんじゅんと説く、道理なことばは、かえって蜂須賀党のやからには、彼の弱音よわねとして聞えた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
与力の雷横らいおうもまだ遠くへはいっていまい。——そもそも、あいつのために、縄目にあい、ぶざまな弱音よわねを吹いたので、晁蓋までが、この俺を、だらしのねえやつと、見くびッたのだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——見損みそこなったわえ。年こそ寄れ、頼みある者とも思うたればこそ、一ノ宮の要害をあずけおいたに。……まだ籠城ろうじょうも半月か二十日はつかともぬうちに、弱音よわねをふいて、これへ逃げ参ろうとは」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いったい、武人と武人のかいするときは、得てして、壮挙そうきょとか決死とか、威勢のよい案に、決まりやすいものである。はらでは、危ういと思っても、弱音よわねに似た意見をのべることは、たれも好まない。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いつ、忠兵衛が、弱音よわねをふきましたか。逃げ戻りましたか」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「亮君、弱音よわねを吹くな。とにかく今夜は拙者について来給え」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふいに、蛾次郎がきもをつぶして腰を抜かしたらしい弱音よわね
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もう弱音よわねでござるか」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)