幾重いくへ)” の例文
待給まちたま諸共もろともにのこヽろなりけん、しのたまはりしひめがしごきの緋縮緬ひぢりめんを、最期さいごむね幾重いくへまきて、大川おほかわなみかへらずぞりし。
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
厚きしとねの積れる雪と真白き上に、乱畳みだれたためる幾重いくへきぬいろどりを争ひつつ、あでなる姿をこころかずよこたはれるを、窓の日のカアテンとほして隠々ほのぼの照したる
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
『前は鳥居や門や扉で、幾重いくへにもなつてますのに、後は板一枚だすな。……わたへ何處どこの宮はんへ參つても、さう思ひまんな。』
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
不圖ふと見れば、王瀧川の上流遠く、雲の幾重いくへともなく重れる間より、髣髴としてあらはれ渡れる偉大なる山の半面。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
になる方がおになつて、お這入になる方がお這入になれば好いのです。御熱心な所は幾重いくへにもお礼を申します。つひ落ち着いて考へて見て下されば好いのです。
防火栓 (新字旧仮名) / ゲオルヒ・ヒルシュフェルド(著)
出雲人いづもびとつくつた、幾重いくへにもまはす、屏風びようぶとばりるいよ。われ/\、あたらしく結婚けつこんしたものをつゝむために、幾重いくへかこひをつくつてあることよ。あゝ、その幾重いくへ屏風びようぶとばりよ。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
第六は江戸城を取巻く幾重いくへほり、第七は不忍池しのばずのいけ角筈十二社つのはずじふにさうの如き池である。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
幾重いくへなる山のはざまに滝のあり切支丹宗きりしたんしゆうの歴史を持ちて
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
まづところ幾重いくへにもおわびをいたしてべんじまする。
西洋の丁稚 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
これは幾重いくへにも御諒察ごりやうさつねがはしうぞんじます。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
飛退とびしさ低頭平身ていとうへいしんしてうやまひ私儀は赤川大膳とてもと水戸家みとけの藩中なれば紀伊家に此御短刀の傳はりし事は能々よく/\知れり斯る證據のある上は將軍の御落胤ごらくいんに相違なし斯る高貴かうきの御方とも存じ申さず無禮の段恐れ入り奉りぬ幾重いくへにも御免おんゆるしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かげ幾重いくへにほへども
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
いくすぢものくもが、どん/\とのぼつてゐる。そのあらはれてゐるくもめぐつてつくつた、幾重いくへかきのようなくもわたしつまなかれるために、幾重いくへものかきつくつてゐる、その幾重いくへものかきよ。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
その時のさま——幾重いくへにも折れ曲つてゐる松花江の氷の上を其処に一隊、かしこに一隊といふ風にして命から/″\逃げ避けて来た人達のさまをそれとはなしに眼の前に描くのでした。
一少女 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
山谿が幾重いくへの山のなかごもりみなみながれここゆ出でむか
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ないがしろにしおして再吟味願ふは其方の爲に宜しからぬぞひかへられよと仰せらるれども假令たとへ身分は何樣いかやうに相成候ともくるしからず君への御爲天下の爲なり幾重いくへにも再吟味の儀御許し下され度ひとへに願ひたてまつると再三押て願はれければ伊豆殿散々さん/″\氣色けしき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)