尾羽おは)” の例文
しかしどうやら尾羽おは打ち枯らした、みすぼらしい浪人のようすである。少しばかり酒気も帯びているらしくて、歩く足つきが定まらない。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いや、いいます。あまりだからいうのです。まるで犬、猫のように、雨露をしのぐ場所もなく、尾羽おはうち枯らして放浪しておられた——。」
口笛を吹く武士 (新字新仮名) / 林不忘(著)
幸いに生命いのちの助かった落人も、いわゆる尾羽おは打ち枯らした浪人として、吹く風の音にも心を配りつつ、世を忍んで生きて行かねばなりません。
酔「くどい、見れば立派なお侍、御直参ごじきさんいずれの御藩中ごはんちゅうかは知らないが尾羽おは打枯うちからした浪人とあなどり失礼至極、愈々いよ/\勘弁がならなければどうする」
二三年この方の重病であわせの裏までがして売る有様、妹のお雪は二十一二のすぐれた容貌きりょうですが、これも、尾羽おは打枯らして見る影もありません。
可哀想かわいそうだと云う念頭に尾羽おはうち枯らした姿を目前に見て、あなたが、あの中学校で生徒からいじめられた白井さんですかと聞きただしたくてならない。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
教えなかったのは私はこんな尾羽おは打ち枯らした貧乏くさい生活をしているのに柳沢はいつも洒瀟こざっぱりとした身装なりをして
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
水馴棹みなれざおを取落さぬばかりに驚いて、「あっ!」と舌を捲かしめた先方の人影というものは、よく見る尾羽おは打枯うちからした浪人姿で、編笠をかぶって謡をうたったり
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「あの寺子屋の段の通りだったよ。お師匠さんは矢張り浪人だった。弓矢は家に伝えても、今は仕えん君知らず、はねなき矢間重次郎やざまじゅうじろう尾羽おはち枯らしていたのだろう」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
山法師の横暴ぶりは、政権や武家社会からは、完全に追われていたが、尾羽おはらしても、まだ山法師そのものの棲息は、この山に残存していることは勿論である。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とある大字のわきに小さく「病畜びょうちく入院にゅういんもとめにおうそうろう」と書いてある。板の新しいだけ、なおさらやすっぽく、尾羽おはらした、糟谷かすやの心のすさみがありありとまれる。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
木理によって、うすいところはホロリと欠けぬとは定まらぬ。たとえば矮鶏ちゃぼ尾羽おははしが三五分欠けたら何となる、鶏冠とさかみねの二番目三番目が一分二分欠けたら何となる。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それに、死んだシャプリッツキイね——数百万の資産を蕩尽とうじんして、尾羽おは打ち枯らして死んだ——あの先生が、かつて若いときに三十万ルーブルばかり負けたことがあったのだ。
そして、案の定現れた兵六さんは、尾羽おはうちからした姿で、しかも今度は自分自身を持ちこんできた様子だった。もう居まいと思ったらしい進君がまだいたことで、彼は頭をかかえた。
雑居家族 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
あぶら蝋燭ろうそくの燃えさし、欠けたナイフやフォーク、陰気いんきくさいヴォニファーチイ、尾羽おはうちらした小間使たち、当の公爵夫人の立居振舞い——そんな奇怪きかい千万な暮しぶりなんかには
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
打なび春さり来ればさゝのうれ小竹〈しの〉の芽〈め〉尾羽おはふり触れて鶯鳴くも (巻十、春雑)
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「何に? 気がつかなかったと? その一言からして、無礼であろう。さては貴様は、この方が余儀ない次第で、尾羽おは打ち枯らしているゆえに、さむらいがましゅう思わなんだというのだな。いよいよもって聞き捨てならぬ。それへ直れ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
現われた武士は浪人らしくて、尾羽おは打ち枯らした扮装みなりであって、月代さかやきなども伸びていた。朱鞘しゅざやの大小は差していたが、鞘などはげちょろけているらしい。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そのおこしらえは——ははあ、雪の日に、尾羽おはち枯らした御浪人、刀をさした案山子かかしという御趣向で、なるほどな、おそれいりました。おそれいりました。」
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
藤「いや面目次第もございません、一時の心得違いから屋敷を出まして、尾羽おは打ち枯らした身の上、かゝる処へ中原うじが参ろうとは存じません、面目次第もございません」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
分っていれば、すぐ院の衛府へ駈けつけて、褒美の黄金こがねにありつこうというもんじゃねえか。……ところが近ごろは、この四郎も、見たとおり尾羽おは打ち枯らしての不景気だ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と誰かが、この長屋のひとりで、尾羽おはち枯らして傘をはっている南部浪人なんぶろうにんへ呼びかけて
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
貴方はなんたるお方かなア、大金を人に恵むに板の間へ手を突いて、失礼の段は詫ると云う、誠に千万かたじけのうござる、只今の身の上では一両の金でも貸人かしてのない尾羽おは打枯うちからした庄左衞門に
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
丹頂たんちょう姐御あねごも、元を思えば、近頃はまったく尾羽おはち枯らしたものです。藍気あいけのさめた浴衣ゆかたにさえ襟垢えりあかをつけている旅役者の残党に交じって、曲独楽きょくごまの稽古をやらなければならない境遇。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尾羽おはうち枯らした浪人時代——いや、今とても浪人ではござるが、もっとミジメな浪人時代、食うに困って浅草へ出、習い覚えた皿廻し、大道芸を売りましてな、日々の生活たつきを得てござるよ。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
われを忘れたように両手を背後に組んで、円陣の外から、この尾羽おは打枯うちからした浪人の太刀さばきに見惚れている。敵味方を超越して、ほほうこれは珍しいつかい手だわいとでもいいたげなようす!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「いや、面目ねえ、相変らずといいてえが、尾羽おはち枯らしてこの姿だ」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここのところ、張飛も尾羽おは打枯うちからしたていたらくなので
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)