家人かじん)” の例文
家人かじんのようすにいくばくか不快ふかいいだいた使いの人らも、お政の苦衷くちゅうには同情どうじょうしたものか、こころよく飲食いんしょくして早そうにった。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
旗本は家人かじんだつて自分の首を何時いつ取られるかと思つて、ビクビクし乍ら一生を送つて居るやうなのは、隨分澤山ありさうぢやありませんか。
今では同じ構内かまえうちにはなって居るが、古井戸のある一隅いちぐうは、住宅の築かれた地所からは一段坂地さかちで低くなり、家人かじんからは全く忘れられた崖下の空地である。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
がツかりしてかへつて、食卓しよくたくにつきながら、把手とつて一箇ひとつ家人かじんしめして、これがめて土偶どぐうかほでもつたら、昨日きのふ敗軍はいぐん盛返もりかへすものをとつぶやくと
この容態ようだいで氏は、家庭におい家人かじん些末さまつな感情などから超然ちょうぜんとして、自分のへやにたてこもりちであります。
家人かじんが心配するので、私はその翌日から、進まぬながらS・K商会へ出勤することにした。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
どうせ病人に逢えないのにその家人かじんをして応接に忙殺せしむるのも気の毒だから私は御見舞に出ないけれども先生の御全快を祈ってひそか衷心ちゅうしんくるしめておりますと見舞状を出しておいた。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
或日、老僕ろうぼく、先生の家に至りしに、二三の来客らいかくありて、座敷ざしきの真中に摺鉢すりばちいわしのぬたをり、かたわらに貧乏徳利びんぼうとくり二ツ三ツありたりとて、おおいにその真率しんそつに驚き、帰りて家人かじんげたることあり。
案外重かったので家人かじんに留められるままに滞在した旨を語りました。
白痴の知恵 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「いったい此方こなたはご家人かじんか、それともご当家の食客か」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わめいた声を聞きつけて、小松原家から家人かじんが来た。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
帽子をかくしたのは友達がわたしの家へ馬をつれて来たので、わたしは家人かじんの手前を憚り、取るものも取り敢ず救を求めに来た如く見せかけようとしたのである。
梅雨晴 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
同月どうげつ十七にち、いよ/\發掘はつくつこととしたが家人かじん其状態そのじやうたいたいといふので、らば其用意そのえういしてくべしとて、さいとに糧食れうしよくたづさへさせ、あいする親族しんぞくの六さい幼女えうぢよ
氏の家へ半月程前の夕刻玄関げんかんかせぎの盗人が入りました。ふと気が付いた家人かじん一勢いっせいに騒ぎ立てましたが、氏は逃げ行く盗人の後姿うしろすがたを見るくらいにしなが突立つったったまま一歩も追おうとはしませんでした。
家人かじんにさとられぬよう、部屋の中へしのびこもうとしているのです。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わが知れる人々のうちにはいかにもして我国の演劇を改良なし意味ある芸術を起さんものをと家人かじんの誤解世上の誹謗ひぼうもものかは、今になほ十年の宿志しゅくしをまげざるものあり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)