孱弱かよわ)” の例文
「一日も早くというて、それが今年か来年のことか。ここの年季ねんきは丸六年、わたしのような孱弱かよわい者は、いつ煩ろうていつ死ぬやら」
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
年紀としのころは二十七八なるべきか。やや孱弱かよわなる短躯こづくりの男なり。しきり左視右胆とみかうみすれども、明々地あからさまならぬ面貌おもてさだかに認め難かり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
視れば我が子を除いては阿彌陀様より他に親しい者も無かるべき孱弱かよわき婆のあはれにて、我清吉を突き放さば身は腰弱弓のつるに断れられし心地して
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
……かなしや/\、此身このみのやうな孱弱かよわものてんまでが陰謀たくらんでめさいなむ!……これ、乳母うば、どうせう? うれしいことをうてたも。なんなぐさめはないかいの?
細卷きの蝙蝠傘かうもりがさ尖端さきで、白く孱弱かよわい嫁菜の花をちよい/\つゝついてゐた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
あの孱弱かよわい少女の一身をして澎湃たる世の濁流中に漕ぎ出したと。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
薄らかに紅く孱弱かよわし鳳仙花人力車じんりきの輪にちるはいそがし
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
手伝っているんですが、どっちかというと孱弱かよわい方で、米屋のような力仕事には不向きなので、遊び半分にぶらぶらしているようでした
半七捕物帳:34 雷獣と蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さりながら、何程思続け候とても、水をもとめていよいほのほかれ候にひとし苦艱くげんの募り候のみにて、いつ此責このせめのがるるともなくながらさふらふは、孱弱かよわき女の身にはあまりに余に難忍しのびがたき事に御座候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
美徳びとくはふあやまれば惡徳あくとくくわし、惡徳あくとく用處ようしょ威嚴ゐげんしゃうず。この孱弱かよわい、幼稚いとけなはなぶさうちどく宿よどれば藥力やくりきもある、いでは身體中からだぢゅうなぐさむれども、むるときは心臟しんざうともに五くわんころす。
孱弱かよわく疲れていざり寄るもの
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
おかんはかっとなって男の喉をしめた。在所ざいしょ生まれで、ふだんから小力こぢからのある彼女が、半狂乱の力任せに絞めつけたので、孱弱かよわい男はそのままに息がとまってしまった。
半七捕物帳:34 雷獣と蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
積って見ても知れる筈であるのに、何が不足でこの播磨を疑ったと、彼は物狂わしいほどにたけり立って、力任せに孱弱かよわい女を引摺ひきずり廻してむごたらしく責めさいなんだ。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
孱弱かよわ女子おなごが群がる犬に取り巻かれている。それが見ず識らずの人であっても見過ごすことは出来ないのに、まして相手は玉藻であるらしいので、千枝太郎の胸はおどった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
清吉も近来はよほど丈夫になったと人も云い、自分もそう信じているのですが、土台の体格が孱弱かよわく出来ているのですから、とても刺青などという荒行あらぎょうの出来る身体ではない。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こんな孱弱かよわいからだに朱や墨をすのは、毒を注すようなものだと思ったが、当人は死んでも構わないと駄々を捏ねているのですから、この上にもうなんとも云いようがない。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
獣のような重太郎と相対あいたいしているお葉は、すこぶる危険の位置にあると云わねばならぬ。かれじょうが激して一旦の野性を発揮したら、孱弱かよわい女に対してんな乱暴をあえてせぬとも限らぬ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あれと云う間に、孱弱かよわい冬子は落葉の上に捻倒ねじたおされると、お葉はかかって庇髪ひさしがみを掴んだ。七兵衛はきもを潰して、すぐ背後うしろから抱きすくめたが、お葉は一旦掴んだ髪を放さなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)