奉天ほうてん)” の例文
奉天ほうてん政府の代表チェン氏と打合わせの結果、大連埠頭で、現場貨物主任の日本人一名を買収し(費用二千ドル程度)直接に貨車に積込み
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
十五、六歳の頃から棒を習った。それまではまだいのであるが、それから更に進んで兵となって、奉天ほうてん歩隊に編入された。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
僕はK君を置き炬燵にしょうじ、差し当りの用談をすませることにした。しまの背広を着たK君はもとは奉天ほうてんの特派員、——今は本社詰めの新聞記者だった。
年末の一日 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
普通の人は戦争とさえ云えば沙河しゃかとか奉天ほうてんとかまた旅順りょじゅんとかそのほかに戦争はないもののごとくに考えている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
華厳けごんたきや、吉野山など、ことにも色彩が見事で、いまでもあざやかに記憶に残っているが、時事の画片としては、やはり、旅順港封鎖、水師営すいしえい会見、奉天ほうてん入城など
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
僕はそれまで勤めてゐた民生部を、大体やめる決心がつくと、辞表を懇意な上役にあづけて、新京を去つて奉天ほうてんへ行つた。二人ほど別れを告げたい友達がゐたものでね。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
ちょっと急いでいたので、往きは航空会社の旅客機で、東京から奉天ほうてん〔瀋陽〕まで飛んだ。
満洲通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
かれがそこを立つて奉天ほうてんの方へ来る時にも、H夫妻はまだその旅舎りよしやの一室に滞留してゐた。
(新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
そうしてその翌晩はまた満州まんしゅうから放送のラジオで奉天ほうてんの女学生の唱歌というのを聞いた。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
日露戦役後にける兵站へいたん衛生作業のあらまし、奉天ほうてん戦前後に於けるを当時の同僚安井氏の記したるを、頃日けいじつ『軍医団雑誌』といふのにのせ候趣にて、其別冊数部を送りこし候まゝ
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
米良は大連の常盤ときわ橋通りのユダヤ人の経営するカバレット・バビロンで、ロシア領事館の書記の支払った奉天ほうてん銀行の贋札にせさつの下で、皺だらけになった支那紙晨報しんぽうを拾い読みしているうちに
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
長兄は秋田の第十七聯隊から出征し、黒溝台こくこうだいから奉天ほうてんの方に転戦してそこで負傷した。その頃は、あの村では誰彼だれかれが戦死した。この村では誰彼が負傷したといふうはさが毎日のやうにあつた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
奉天ほうてんは自ら棄て北の方に走るというような事になって、この平和が成立つということになれば、まず満州全部は全く露西亜ロシアの勢力からこれを区別して、露西亜ロシアに棄てさせるということになる。
東亜の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
一昨日の真昼、奉天ほうてん駅の待合室は堪えがたく暑かった。暑い空気の中を銀蠅がうるさく飛んでいた。桃の木の下に、前髪を垂れた支那美人の立っているビラを、十四五の露西亜ロシア少年が見上げていた。
プウルの傍で (新字新仮名) / 中島敦(著)
父のかん奉天ほうてんの令で、公平の人物として名高かった。
岷山の隠士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あき奉天ほうてん街上かいじやう銃架じうかはひとりの同志どうしうばつた
満洲では緑林王りょくりんおう(馬賊王)張作霖ちょうさくりん奉天ほうてんって北方経営の根を拡げ、日本では日英同盟のお代りとなるべく締結された日仏協約が、更に一歩を進めて、英の新嘉坡シンガポール
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この出来事の舞台は奉天ほうてんに近い芹菜堡子ぎんさいほしとかいう所だそうである。わたしもかつて満洲の土地を踏んだことがあるが、その芹菜堡子とかいうのはどんなところか知らない。
雪女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
宗助そうすけ出來できだけまはして、こと眞疑しんぎさぐつた。さうして、關係くわんけいから、安井やすゐがたしかに奉天ほうてんにゐることたしかた。同時どうじかれ健康けんかうで、活溌くわつぱつで、多忙たばうであることたしかた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
わたくし歩哨ほしょうに立っていたのは、この村の土塀どべいの北端、奉天ほうてんに通ずる街道かいどうであります。その支那人は二人とも、奉天の方向から歩いて来ました。すると木の上の中隊長が、——」
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
紙は満洲まんしゅうへ行った時に、奉天ほうてんの城内までわざわざ行って沢山買って来たし、墨も待望の品が手に入ったし、判も朱泥も揃ったので、もうあとは描きさえすればよいわけである。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
れつはいま奉天ほうてん城門じやうもんをくゞる
継子さんの阿兄おあにいさんは陸軍中尉で、奉天ほうてんの戦ひで負傷して、しばらく野戦病院に這入はいつてゐたのですが、それから内地へ後送されて、はりしばらく入院してゐましたが
ただまるまるふとったほおにいつも微笑びしょうを浮かべている。奉天ほうてんから北京ペキンへ来る途中、寝台車の南京虫なんきんむしされた時のほかはいつも微笑を浮かべている。しかももう今は南京虫に二度とされる心配はない。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)