垣間見かいまみ)” の例文
愛吉は心なく垣間見かいまみた人に顔を見らるるよう、思いなしか、附添の婦人おんなの胸にも物ありげに取られるので、うつむいては天窓あたまを掻いた。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その日、フウバア大統領の前を、颯爽さっそうと、分列行進をしていった女子選手達のうちに、あなたのりりしい晴れ姿をちらっと垣間見かいまみました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
金はどれほどでも出してやるから手近なところで店でも持ち、ゆくすえ長く垣間見かいまみさせたもいのう。……と、いうわけなんだ
それらの人々の間にお君のことが問題となって、それとなく用事をかこつけてはお君を垣間見かいまみようとするようになりました。
大隅学士は、欅の葉蔭をとおして垣間見かいまみる武夫の変りはてた姿に、思わずき出てくる涙をソッと拭った。一体これからどうしたらいいだろう。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
長い間塞がれてゐた孔が開けて、内部の見知らない景色を垣間見かいまみる事が出来たのである。人生は忽ち全く新奇な光景を、わしの前に示してくれた。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
あるじの成輔の使いで、再々、垣間見かいまみあっていた相思のふたりは、やがて、北山殿の花の御遊ぎょゆうの折、花の下で結ばれた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一度嫁したが舅姑に虐げられて脱れ出たという。馬これを垣間見かいまみ瓢金ひょうきんなその妻と謀り自分は飲みに出たと称し妻をして疾に托して王を招かしめた。
小波の恋が破れて後、その令嬢が縁付いた婚家の近くに住っていた私は時折美貌びぼう垣間見かいまみ、淑徳を聞くにつけて小波のためにすこぶる同情に堪えなかった。
彼はその人のみめかたちをせめて一と眼でも垣間見かいまみたいと願ったが、しかし出来ることならば、単独の彼女よりも
小山田氏はある垣間見かいまみに静子を深く恋して、伝手つてを求めて結婚を申込んだ。静子も小山田氏が嫌いではなかった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その時、監房の狭い高い窓から、隣りの廊下の天井に、それが私の垣間見かいまみることのできる唯一の天空だったが、そこに黄ばんだ反映のあるのが目についた。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
無限を垣間見かいまみ、夢みて、それと比較するために、自分をも事物をも本氣にしない……。自己の無力の感じ。
かめれおん日記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
三月にわたる久きをかの美き姿の絶えず出入しゆつにゆうするなれば、うはさおのづから院内にひろまりて、博士のぼうさへつひそそのかされて、垣間見かいまみの歩をここにげられしとぞ伝へはべる。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かたわらにきちんとひざを正されて、易だの朱子だのと申すむずかしいお話に耳を澄ましておられるお姿を、わたくしどももよく垣間見かいまみにお見かけしたものでございました。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
言葉の修練を積むに従って詩の天地が開闢かいびゃくする。鶴見はおずおずとその様子を垣間見かいまみていたが、後には少し大胆になって、その成りゆきを見戍みまもることが出来るようになった。
今朝けさは、いつにも似ず早く眼醒めつ。御身の此寺に近付き給へるを垣間見かいまみ、如何はせむと思ひ惑ひ候ひしが、所詮、人間道を外れし此身。神も仏も此世にはしまさずかし。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
だが、わたしがあの岸を去って以来、木伐きこりはさらに一段とそこを切り荒らし、ここのところ長年のあいだは、ところどころ水を垣間見かいまみしつつ森の廻廊を逍遙することはないであろう。
人知れず松葉屋まつばやの前を通って、そっとお糸の姿を垣間見かいまみたいとは思ったが、あたりが余りに明過あかるすぎる。さらばこのまま路地口に立っていて、お糸が何かの用で外へ出るまでの機会を待とうか。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「が、まだその摩利信乃法師とやらは、さいわい、姫君の姿さえ垣間見かいまみた事もないであろう。まず、それまでは魔道の恋が、成就する気づかいはよもあるまい。さればもうそのように、怖がられずとも大丈夫じゃ。」
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
豆相ずそうの近国でこそ、北条殿の息女といえば、どんな深窓の名花かと、見ぬすがたを、垣間見かいまみにでもと、あこがれる若殿輩わかとのばらもあるが、佳麗な容色は
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かたわらにきちんとひざを正されて、易だの朱子だのと申すむづかしいお話に耳を澄ましてをられるお姿を、わたくしどももよく垣間見かいまみにお見かけしたものでございました。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
私は突然、それまでぼんやり垣間見かいまみてるにすぎなかった事を、決定的な瞬間がきてるという事を、自分の判決を聞くために自分は出て来てるという事を、はっきり悟った。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
たゞ知己ちかづきの人の通り抜け、世話に申す素通りの無用たること、我がおもひもかはらず、りながらお附合五六軒、美人なきにしもあらずといへども、みだり垣間見かいまみを許さず、軒に御神燈の影なく
草あやめ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
人知ひとしれず松葉屋まつばやの前を通つて、そつとおいと姿すがた垣間見かいまみたいとは思つたが、あたりが余りに明過あかるすぎる。さらばのまゝ路地口ろぢぐちに立つてゐて、おいとが何かの用で外へ出るまでの機会を待たうか。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
垣間見かいまみたことすらないのであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
でなくともお綱の心は、一途いちずにそこへ向いていた。とにかく、垣間見かいまみにでものぞいてみたい、声だけでも横顔だけでも——という恋慕が矢のようにはやる。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はすべてを垣間見かいまみたが、ついに何物もはっきり見付け得なかった。
はなすくなけれど、よし蘆垣あしがき垣間見かいまみとがむるもののなきがうれし。
松翠深く蒼浪遥けき逗子より (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
花嫁は、明智家の三女で、時まだ十六のつぼみであったが、やがて細川家の内室、ガラシヤ夫人といえば、垣間見かいまみたこともない者までが、美人だそうな——と噂した。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
投扇興とうせんきょう、すごろく、和歌合うたあわせ、といったような遊戯にも、すぐ飽いてしまうし、誰や彼の、垣間見かいまみの男性たちのうわさも、ままにならない身がかえって苦しくなるだけで、恋をするには
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
九条院に仕えていて麗名の高かった頃から始終、垣間見かいまみていたものである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ひそかに、垣間見かいまみました」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)