四月よつき)” の例文
おれは会話を覚える必要から、初めの四月よつき程は主人夫婦の食卓で飯を食つて居た。飯を一緒に食ふ下宿人はおれの外に四人の女が居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「おう! 俺、鉄道の、砂利積みに行きてえなあ。鉄道の砂利積みに出て稼ぐど、四月よつき五月いつつきで、馬一匹は楽に買えるから。」
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
ねえさん、私はね、初め四月よつき程の不経済な暮しをして居ました事を思ひますとねえさんに済まなくつて済まなくつて、仕方がないのですよ。』
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「まったくさ。三月みつき四月よつきッてとこじゃないのかね。きれいな人妻の、妊娠みごもりッてやつは、妙に、男に物を思わせるものだて」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「今年の四月からですから、まだほんの四月よつきにもなりません。よく気の付いて働く女でしたが、可哀想なことをしました」
ラスコーリニコフはもう四月よつきも彼のところへ行かなかったし、ラズーミヒンの方は、彼の下宿さえ知らない始末であった。
郊外では四月よつき五月いつつきも釣る蚊帳かやが、ここでは二十日か、三十日位しからない。でも、毎年のように蚊がえた。その晩も皆な蚊帳の内へ入った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
山にゐて、四月よつき五月いつゝきも逢はずにゐた友達に逢つてかうして団欒して飲むといふことは楽しいことであると思つた。私はその翌日はもう山に来てゐた。
社会と自己 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
「ふむ、大分だいぶん大きくなった乳嘴ちくびにぼっと色が着いて、肩で呼吸いきして、……見た処が四月よつきの末頃、もう確かだ。それで可しと、掻合せてやんなよ、お寒いのに。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わしらとこの息子も二人とも十歳にもならねえでいけなくなりやしたが、これも定命ぢやうみやうで、實は此の人間の生れる月といふものは一年のうちに四月よつきしかねえでごわす。
山を想ふ (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
ねえ、あなた、あなた! 戦争においでなすったのね。なぜなの。恐ろしいことだわ。四月よつきの間私は生きてる気はしなかったわ。戦争に行くなんて、ほんに意地悪ね。
せめて、冬の陣のままで四月よつきか半年も頑張ったならば、当時は戦国の余燼よじんがやっと収まったばかりであるから、関ヶ原の浪人も多く、天下にどんな異変が生じたか分らないと思う。
大阪夏之陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
去年の冬お前に会った時、ことによるともう三月みつき四月よつきぐらいなものだろうと思っていたのさ。それがどういう仕合しあわせか、今日までこうしている。起居たちいに不自由なくこうしている。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さて太子たいしはおまれになって四月よつきめには、もうずんずんお口をおきになりました。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
おはまばかり以前にも増して一生懸命に同情しているけれど、向うが身上しんしょうがえいというので、仕度にも婚礼にも少なからぬ費用を投じたにかかわらず、四月よつきといられないで出て来た。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
四月よつき! ——そこには四月の愛の結晶がすでにもう宿されているのである。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
貰乳もらいちちをして育てていると、やっと四月よつきばかりになった時、江戸中に流行はやった麻疹はしかになって、お医者が見切ってしまったのを、わたしは商売も何も投遣なげやりにして介抱して、やっと命を取り留めた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
放牧される四月よつきの間も、半分ぐらゐまでは原は霧や雲にとざされます。
種山ヶ原 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
おかげで俺のかたきは打った、まだ片割かたわれは二人残っているが、それは三月みつき四月よつきのちだ、しかし、その時は、別にお前の手を借りなくても好いから、心配しなくって好い、では別れよう、別れのしるし
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
坊ちやんは青木さんの洋行に立たれてから四月よつきばかりして、お留守中にお生れになつたので、坊ちやんが三つになられるまで向うにゐられた青木さんには、子供をそれまでにする苦労が判つてゐない。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
「さよう。これは四月よつきばかり前のことだが——」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
四月よつきあまり過ぎたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「そうだ。四月よつきぶりの都入り。宿所わりの沙汰が来るまで、せめて髯でもって少し洒落しゃれておこうよ。早く借りて来い」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仕上り二年間の見積みつもりの処が、一年と持たず、四月よつき五月いつつきといううちから、職人の作料工賃にも差支えが出来たんですって、——それがだわね、……県庁の息がかかって
四月よつき五月いつつき、半歳と、親切な島の人達の世話になりながら、身体も心も恢復かいふくするのを待ちました。
四月よつきも会わないのに、やっと抱きついたばかりで、もうあたしを追いやろうっていうの。」
「蓄めで置きてえのは山々だどもよ。ふんだが、馬を買うのにあ、三月みつき四月よつきも、飲まず食わずに稼がなくちゃなんめえぞ。馬も欲しいが、生命いのちも欲しいから、なんとも仕方ねえよ。」
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
二人は四月よつきも会わなかったのである。ラズーミヒンは、ぼろぼろになるまで着古した部屋着をまとって、素足に上靴を引っかけ、ひげもあたらなければ顔も洗わず、ぼうぼう頭のままでいた。
放牧ほうぼくされる四月よつきの間も、半分ぐらいまでは原はきりくもとざされます。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
四月よつき今日けふは狂ひ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
戦前すでにくわしい“柳斎情報”を握ッていたからではあるが、彼自身も、四月よつきにわたる畿内きない遊撃のあいだに、正成の郷土の衆望や人間の奥行きについては
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生命いのちを取られいでから三月みつき四月よつきわずらうげな、此処ここの霧は又格別かくべつぢやと言ふわいなう。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
生理的にも三月みつき四月よつきかという感受性のつよい期間にあった小宰相は、みかどたることも忘れて、帝を一個の男としてのみ、離しがたい思いにただれたに相違ない。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山妻の戦後疲れの大病やらたれも通って来たあの疎開生活の中にぼくらも暮らしあえいできたのは当然で、やがて昭和二十三年になって雑誌「東京」に“色は匂へど”を四月よつきほど書き
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)