台辞せりふ)” の例文
旧字:臺辭
彼は両眼りょうがんをカッと見開き、この一見意味のない台辞せりふきちらしていたがやがてブルブルと身震みぶるいをすると、パッと身をひるがえして駈け出した。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「すっかりうまくいったわ。」ただ一つ彼女は、他人の台辞せりふはもっと削ってもらいたく、自分のは削らないようにしてほしいだけだった。
……店頭みせさきをすとすと離れ際に、「帰途かえりに寄るよ。」はいささか珍だ。白い妾に対してだけに、河岸の張見世はりみせ素見すけん台辞せりふだ。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何卒これにおりにならずに是非又お世話をして戴きたく、と、この間も云った台辞せりふを云うと、井谷は急に声をひそめて
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
という台辞せりふには、暗さや哀しさはほとんど感じられなかった。それ故にこそその言葉は、今の栄介にとって、千鈞せんきんの重みを持ってのしかかって来る。
狂い凧 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
が、きいて頂きたいことがあるのだ、相談にのって頂きたい、力になって貰いたい、と手前勝手な台辞せりふばかりならべるのは、なんとも恥しい話です。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
これは果たしてフランス語であろうか、人間の大国語であろうか? 既に舞台に上がるばかりになっており、罪悪に台辞せりふを与えるばかりになっている。
道具の汚いのと、役者の絶句と、演芸中に舞台裏で大道具の釘を打つ音が台辞せりふを邪魔することなぞは、他では余り見受けない景物である。寒い芝居小屋だ。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「上ッたか、下ッたか、何だか、ちッとも、知らないけれども、平右衛門へいえもん台辞せりふじゃアないが、酒でもちッとめえらずば……。ほほ、ほほ、ほほほほほほほ」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
「彼女」の台辞せりふだって、切々きれぎれに覚えている。そんなことを考えていると、新子は姉に対する、肉親らしい感激で、さっきとは別人のように、興奮してしまった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そのうちに芝居は進行して、——妾を逃がして下さらないこと? という台辞せりふのところまできました。
華やかな罪過 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
惚れた弱味は、いつの日に、頼みまするといはれても、その事ならば否とはいはぬ。殺す役目は真平御免。いつかのお前の台辞せりふじやないが、外を尋ねて下さんせか。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
皆は寄々より/\その事を話して気遣つたものだ。すると初日の幕がいた。待ち設けた車曳となつた。皆は身体からだぢゆうを耳のやうにして、その台辞せりふを待つた。菊之丞は叫んだ。
それがハムレツトの台辞せりふよろしくあつて、だんだんあいつが太夫たいふにつめよつて来た時に、の悪い時は又間の悪いもので、奈良茂ならもの大将が一杯機嫌でどこで聞きかじったか
南瓜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
けれども、虎だから、台辞せりふを言うことがないので稽古にも出る必要がない。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
と、これがルチアノの帰りしなの台辞せりふだった。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
自由な魂の避難所たるフランスへ逃げ込んだのだと言い——(熱狂的な愛国心の台辞せりふを並べるにはいい口実である)
また取れようもないわけなんだ。能役者が謡の弟子を取るのは、歌舞伎俳優やくしゃ台辞せりふ仮声こわいろを教えると同じだからね。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此の台辞せりふの間に、ふとんの上から足で私の体を揺すぶったり、或は上の夜具を一枚まくったりする所作しょさが入る。
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ジュリアはまるでレビュウの舞台に立っているかのように、美しい台辞せりふをつかった。側に立つルネサンス風の高い照明灯は、いよいよ明るさを増していった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
久子の台辞せりふのおわらぬうちに、樹陰から、前に出てきたのと同じような仮面の男が、忽然として、しかし静かに現れ、四人の方へピストルの銃口つつぐちを向けながら直立している。
探偵戯曲 仮面の男 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
読めと云ふから読んで見ると、テエマが面白いのにも関らず、無暗に友染縮緬いうぜんちりめんのやうな台辞せりふが多くつて、どうも永井荷風氏や谷崎潤一郎氏の糟粕さうはくめてゐるやうな観があつた。
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
南北はとちの葉のやうな大きな掌面てのひらで押へつけるやうにして、急に雀右衛門の気に入りさうな台辞せりふ出鱈目でたらめに幾つか附け足すので、一旦曇つた女形の眼は急にまた明るくなつて来る。
もうもう、そんな時代な台辞せりふで、私を
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
なんかと云って筆者わたくしは、話の最初に於て、安薬やすぐすり効能こうのうのような台辞せりふをあまりクドクドと述べたてている厚顔こうがんさに、自分自身でもくに気付いているのではあるが
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と娘が引取った、我が身の姿と、この場の光景ようす、踊のさらいに台辞せりふを云うよう、細くとおる、が声震えて
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また彼女は、とびらに耳を押しあてて、台辞せりふを繰り返してる役者たちに耳を傾けた。そして一人で廊下の掃除そうじをしながら、彼らの台辞回しを小声で真似まねたり、身振りをしたりした。
稽古中に突然あの人のことを思い出して台辞せりふを忘れたことなどもあったくらいです。
華やかな罪過 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
役の振当ふりあてもあらかた済んで、さて愈々いよ/\本読ほんよみにかかると、延若も、雀右衛門も、そのほかの俳優も折角自分が楽みにして待ち設けた台辞せりふが無いので、てんでに変な顔をしてゐるが、実をいふと
ところが例の「カフェの送り出し」のところで、玲子の云う台辞せりふがまるで違っている個所があった。
獏鸚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「うんえ、あの台辞せりふで、あなたの桟敷を見て笑ったのを見て、それで気がついた、あなたの来ているのが。……といったわけなんですもの、やすい祝儀じゃでけんでねえ。」
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そういう教育法は長くつづくはずだったが、彼女はあるとき不謹慎にも、役者の室から台辞せりふの台本を盗み出した。その役者はひどく怒った。女中よりほかにだれも彼の室にはいった者はなかった。
鼓村氏は芝居の台辞せりふがかつた調子で言つた。
そう思ってたまらなかったんですが、気が着きますとね、待てよ、わっしが思ったとおりを口へ出して謂やあ、突然いきなり伝を向うへまわして、ずらりと並べる台辞せりふになる、さあ、おもしろい、素敵妙だ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まるでお伽噺とぎばなしに出てくる人間の姿をした神様の台辞せりふみたいですね。そんなまどろこしいことをいわないで、早く教えてください、一体われわれが遠き未来において、どんな生活をするかを……」
彼は彼女の台辞せりふに多少不安を感じて、懸念けねんのあまり尋ねた。
とこの際、障子の内へ聞かせたさに、捨吉相方なしの台辞せりふあり。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いやに気の小さい台辞せりふを仰せられまする」
子供芝居の取留めのない台辞せりふでも、ちっと変な事を言う。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ばたばたとあおいで、台辞せりふ
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)