口説くぜつ)” の例文
近頃はお角の弟子達を全部断って、肌寒くなりまさる晩秋の一夕いっせきを、長火鉢を挟んで口説くぜつの糸をたぐるのに余念もなかったのです。
ここは李巧奴りこうぬ妓家ぎけで、通い馴れてもいるらしい。口説くぜつ、いろいろあって、先生はひそかにうれしくもあり、持て余し気味でもあった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お前さんはあんまりな人だとかなんとか云って口説くぜつでも云う所だから殺す気遣きづかいはあるまいよ、どんな事をしているか、お前見ておいでよ
買うというのが不審だとにらんでいたが、ほしいのはしごきじゃなくて、おまえの口説くぜつをこめた文が目あてだったというのかい
其夜の夢に逢瀬おうせ平常いつもより嬉しく、胸ありケの口説くぜつこまやかに、恋しらざりし珠運を煩悩ぼんのう深水ふかみへ導きし笑窪えくぼ憎しと云えば、可愛かわゆがられて喜ぶは浅し
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
此間こないだの晩もあるのに、あんまり来ようが遅いから、来たらちょい口説くぜつを言ってやろう、それでも最う来るだろうから、一つ寝入った風をしていてやれ
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
こんな口説くぜつよろしくあって、種員は思いも掛けぬ馬鹿に幸福しあわせな一夜を過し翌朝あくるあさぼんやり大門おおもんを出たのであった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
どれこの花束を買ひませう。おやおや氣でもちがつたか。そして心で笑ひつつ、薔薇ばらの花束ひとかかへ、さきの口説くぜつもどこへやら、マノンのとこへ飛んで行く。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
こういう私ですがね、笑い事じゃあるけれども、夢で般若が追廻すどころか、口で、というと、大層口説くぜつでもうまそうだ。そうじゃない、心で、お絹さんを……
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
富岡は冷い茶をすゝりながら、寒いので、膝を貧乏ゆすりして、ゆき子のヒステリックな口説くぜつを聞いてゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
千代の口説くぜつ至極しごく簡短になっていましたが、これはむを得ますまい。いろは送りも無論ありません。
米国の松王劇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
べたべたと客にへばりつき、ひそひそ声の口説くぜつも何となく蝶子には気にくわなかったが、良い客が皆その女についてしまったので、追い出すわけには行かなかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
果して全部が偽りの口説くぜつであったかどうか、それは、わかったものじゃ無いと私は思って居ります。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「止めたところで止まらねえ俺だ、愚痴も口説くぜつも聞き飽きた。未練のあるうちよ、そんなもなア」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「よしんばそれが、ただの口説くぜつにしたところで、おいらにゃ一向、身におぼえのないことさ」
「ははは、逢えば、そのまま、口説くぜつして、と唄の通りだの。それで、富士春、妹なら?」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
よそから口説くぜつの多い克子の向こう見ずな振舞が、ただ持前の負けぬ性質からだけではなく、不具の子に与えられた武器なのだと思い、それで克子をとがめだてはできないのだぞと
赤いステッキ (新字新仮名) / 壺井栄(著)
とこういう口説くぜつなんでげして、その策略がすっかりこうを奏したと思いなせえ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
したがって『八犬伝』の人物は全く作者の空想の産物で、歴史上または伝説上の名、あるいは街談口説くぜつ舌頭ぜっとうのぼって伝播された名でないのにかかわらず児童走卒にさえ諳んぜられている。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
やたらに昔の口説くぜつが恋しくてたまらなくなっていた。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
彼女は閨房けいぼう口説くぜつにいつもこの手を出すのである。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
脂肪あぶら口説くぜつ
近頃はお角の弟子達を全部斷つて、肌寒くなりまさる晩秋の一夕を、長火鉢を挾んで口説くぜつの絲をたぐるのに餘念もなかつたのです。
猥談わいだん猥語わいごも出かねない。巧雲はおとりもちを人にまかせて、いつか小部屋の暗がりに如海をひきいれて口説くぜつしていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、行きついたその吉原は、灯影ほかげなまめかしい口説くぜつの花が咲いて、人の足、脂粉の香り、見るからに浮き浮きと気も浮き立つような華やかさでした。
外記と馴染みそめたその当座は、自分たちの間にもそうしたおさない他愛ない痴話ちわ口説くぜつの繰り返されたことを思い出して、三年前の自分がそぞろに懐かしくなった。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さるからに口説くぜつの際も常に予を戒めて、ここな性悪者め、あだ女子おなごに見替えてむごくも我を棄つることあらば呪殺のろいころしてくれんずと、凄まじかりし顔色は今もなおまなこに在り。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほれた同士が二人きりでほかに誰もいないのでげすから、たまには痴話や口説くぜつで夜更しをして思わぬ朝寝もしましょうし、また雨なんかゞ降るときはまだ夜が明けないと存じて
いはんやほかの芸事とはちがひ心中物しんじゅうものばかりの薗八節そのはちぶしけいこ致させほれねばならぬ殿ぶりに宵の口説くぜつをあしたまで持越し髪のつやぬけてなど申すところはとりわけじょうをもたせて語るやう日頃註文ちゅうもん致を
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何が何だか、さっぱりわけのわからない口説くぜつになって来た。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
お半はとうとう、独り口説くぜつに実が入って、匕首あいくちまで持出し、一緒に死んでくれとでも言って文三郎に絡み付いた事だろう。
さっさとあがっていった家は意外と言えば意外ですが、先程宵のうちに待ち伏せていて、恋慕の口説くぜつを掻きくどいたあの散茶女郎水浪のいる淡路楼でした。
「はははは。それが新田の親切気か。高氏が遊女でもあることなら、これや、うれしがる口説くぜつかもしれん」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お半は到頭、獨り口説くぜつに實が入つて、匕首あひくちまで持出し、一緒に死んでくれとでも言つて文三郎に絡み付いた事だらう。
いや、弦之丞も人間だから、そりゃ、大望の途中にだって、痴話や口説くぜつもやるだろうが、お綱という女がついている。ははあ、それでお米も目がさめたんだな。そうだ、そうに違えねえ。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
菊がねだったのやら、そちがねたのやら知らぬが、別れともない、別れて行くはいやじゃ、なら御一緒にと憎い口説くぜつのあとで、手に手をとりながら参ったであろうが喃。ウフフ、あはは。
「親分、若旦那は亥刻よつ(十時)少し過ぎに六間堀に歸つて、小唄の師匠のお勝と泣いたり笑つたり夜半まで口説くぜつの擧句、到頭隣長屋から苦情が出たさうですよ」
口説くぜつに訴えてみせるばかり……。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あの娘もそう言いましたよ、せめて口説くぜつは江戸言葉にして下さい——とね」
「あのもさう言ひましたよ、せめて口説くぜつは江戸言葉にして下さい——とね」
「乞食のやうな虎松を引入れて、大變な口説くぜつをしたといふのだらう」
「有難く聽聞してゐるよ——地獄極樂の口説くぜつよりは面白さうだ」
「ピカ/\後光が射して見ねえ、まぶしくて口説くぜつもなるめえ」