処女むすめ)” の例文
旧字:處女
心蓮は、ひたいごしに、さっきから女の姿態に注意をとられていた。人妻ではない。処女むすめである。二十三か、四か。農家の女ではない。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうぞ、あの処女むすめを罰しないで下さい。そうして、いつまでもいつまでも清浄きよらかにお守り下さいませ。そうして私も…………。
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
水浴する白いれた着物が娘達の身体にまとい着いたことを思出した。時々明るい波がやって来ては、処女むすめらしい、あらわな足をさらったことを思出した。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いやうしては……。』と言はうとしたのを止して、信吾は下駄を脱いだ。処女むすめらしい清子の挙動しうちが、信吾の心に或る皮肉な好奇心を起さしめたのだ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
千世子は自分が斯うやって処女むすめで気楽にして居るのがどれほど無邪気に見えるんだかと思うと可笑しくなった。
蛋白石 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
窓から入る夕日を受けて、藤色の洋服に照り栄ゆる処女むすめの顔の美しさは、南老人でなくとも見とれる程でした。
古銭の謎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「だってあれは」こう云いかけたが、侮辱されたように片手を振り、「そんなばかなことがあるか、あんな言葉だけで、れっきとした処女むすめが——浴衣だ、出る」
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
白きむちをもって示して曰く、変更の議罷成まかりならぬ、御身等おんみら、我が処女むすめを何と思う、海老茶えびちゃではないのだと。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
必死にもがく萩乃、匹田ひったの帯あげがほどけかかって、島田のほつれが夜風になびき、しどけない美しさ。乱れた裾前に、処女むすめの素足は、夜目にもクッキリと——。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
昔から阪東男ばんどうおとこの元気任せに微塵みじんになる程御神輿の衝撞ぶつけあい、太鼓の撥のたゝき合、十二時を合図あいず燈明あかりと云う燈明を消して、真闇まっくらの中に人死が出来たり処女むすめおんなになったり
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
女というものは処女むすめのうちだけが花よ、学校にいればまた試験とか何とかいうて相応に苦労がある、マア学校を卒業して二三年親のところにいる間が女としては幸福な時だね
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
十六の春の一人の処女むすめを生きながら地獄へ落しなすつたことは、モウくにお忘れだらうネ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
どことなくわかき男のようなる処あること、あたかもジヤニイノに処女むすめ処女したる処あるに似ている。彼等の後方には一侍僮戸口から出て来る。手に打ち出し模様の銀の酒杯を携えている。
やがて愛らしい花嫁となる処女むすめが、祝言しゅうげんの前晩に頓死とんしするのもある、母親の長い嘆きとなるのも知らずに。麻痺まひしたしんの臓のところに、縫いかけた晴れ着をしっかり抱き締めたりしてな。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
雪江さんは処女むすめだけれど、乳の処がふッくりと持上っている。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
処女むすめのやうに遥かを見遣みやつてはならない
「神の処女むすめ
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
子等之館こらのたちに起きししている妙齢の巫女みこたちは、もちろんみな清女であった。幼いのは十三、四歳から大きいのは二十歳はたちごろの処女むすめもいた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
久治は飛込んで処女むすめの弱り果てた身体を抱き上げたのです。二人は人の見る眼も忘れて濡れた頬を寄せます。
しろむちしめしていはく、変更へんがへ罷成まかりならぬ、御身等おんみら処女むすめなにおもふ、海老茶えびちやではないのだと。
甲冑堂 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
裸に憑入みいる魔の葛籠笠と、この凶精きょうせいに取っつかれた美しい処女むすめと——。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
処女むすめの名前は、米子と云つた。
「おまえも寺で育った処女むすめじゃから、無明煩悩のさまよいが、どんなに果てなきものか、悲しいものか、救われ難いものかぐらいは知っておろうが」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
芸者なんぞになったとて、色も諸分しょわけも知抜いた、いずれ名取のおんなども、処女むすめのように泣いたのである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
でも青白い頬のあたり、わずかに処女むすめらしい血潮の流れたのを、平次は見逃す筈もありません。
銭形平次捕物控:245 春宵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
私はたびたび処女むすめをみた……
美しい月の最初の光りが、この血に染んだ処女むすめを、世にも浄らかな姿に照し出しております。
洋犬かめめかけになるだろうと謂われるほど、その緋の袴でなぶられるのをけがらわしがっていた、処女むすめ気で、思切ったことをしたもので、それで胸がすっきりしたといつかわたくしに話しましたっけ。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その上、癡言たわことけ、とお叱りを受けようと思いますのは、娼妓じょろうでいて、まるで、そのおんな素地きじ処女むすめらしいのでございます。ええ、他の仁にはまずとにかく、てまえだけにはまったくでございました。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)