冬籠ふゆごもり)” の例文
こゝが親子の情で、雨に付け風に付け案じられて、今頃は何処にるか、こう云う雪の降る時には何処の宿屋で冬籠ふゆごもりをしてることか
五箇月の長い冬籠ふゆごもりをしたものでなければ、ほとんど想像も出来ないようなこの嬉しい心地ここちは、やがて、私を小諸の家へ急がせた。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
畠を耕して自給自足の生活を初めると同時に、小川の魚を釣って干物にしたり、木の実を煮てつとに入れたりして、冬籠ふゆごもりの準備を初めました。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ただ天地暗澹あんたんうちに、寒い日がしずかに暮れて、寒い夜がしずかに明けた。この沈黙は恐るべき大雪をもたらす前兆である。里の人家ではいずれも冬籠ふゆごもりの準備にかかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あったかい初茸飯の湯気の立つのをふうふう吹きながら、故郷の秋のあわただしく暮れて、早い初雪が来て冬籠ふゆごもりの季節となる頃を、涙ぐましい程なつかしく思い出した。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
あのあたりは冬籠ふゆごもりの雪の中で、可心——という俳人が手づくろいに古屏風ふるびょうぶの張替をしようとして——(北枝編——卯辰うたつ集)——が、屏風の下張りに残っていたのを発見して
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
宮が居間とふまでにはあらねど、彼の箪笥たんす手道具など置きたる小座敷あり。ここには火燵こたつの炉を切りて、用無き人の来てはかたみ冬籠ふゆごもりする所にも用ゐらる。彼は常にここに居て針仕事するなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「然し思つた程でもないものです。若し冬になつて如何どうしても辛棒が出来さうもなかつたら、貴所方あなたがたのことだから札幌へ逃げて来れば可いですよ。どうせ冬籠ふゆごもりは何処でしても同じことだから。」
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
冬籠ふゆごもり又よりそはんこの柱」という芭蕉の句は、冬籠だけに柱に寄添う時間が長いので、柱に対してもあたかも人の如き親しみを生じているが、白雪の句にはそれほどの感情は含まれていない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
如何に幸福な平和な冬籠ふゆごもり時節じせつであったろう。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
どうしても笑はぬ人と冬籠ふゆごもり 爛鳥
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
屋根低き宿うれしさよ冬籠ふゆごもり
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
冬籠ふゆごもりの窓がいて、のきひさしの雪がこいがれると、北風に轟々ごうごう鳴通なりとおした荒海の浪のひびきも、春風の音にかわって、梅、桜、椿つばき山吹やまぶき、桃もすもも一斉いちどきに開いて、女たちのまゆ、唇
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
冬籠ふゆごもりの用意に多忙いそがしい頃で、人々はいづれも流のところに集つて居た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
摺小木すりこぎの細工もはてず冬籠ふゆごもり 蘆文
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
古きによき絵かゝりて冬籠ふゆごもり
七百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
𨿸にわとりの片足づゝや冬籠ふゆごもり 丈草
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
半月ばかり見ないうちに、家々は最早もう冬籠ふゆごもりの用意、軒丈ほどの高さに毎年まいとし作りつける粗末な葦簾よしずの雪がこひが悉皆すつかり出来上つて居た。越後路と同じやうな雪国の光景ありさまは丑松の眼前めのまへひらけたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
浪花津なにわづに咲くやこの花冬籠ふゆごもり、今を春へと咲くやこの花。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
冬籠ふゆごもりわれを動かすものあらば
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
家毎に大根を洗い、それを壁に掛けて乾すべき時が来た。毎年山家での習慣とは言いながら、こうして野菜を貯えたり漬物の用意をしたりする頃に成ると、復た長い冬籠ふゆごもりの近づいたことを思わせる。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一人で、あり冬籠ふゆごもりに貯えたようなくだんのその一銚子ひとちょうし
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
冬籠ふゆごもり心の奥のよしの山 蕪村
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
僧侶も労働して、長い冬籠ふゆごもりの貯えを造らなければ成らない。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
四五日は冬籠ふゆごもりせん旅がへり
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
冬籠ふゆごもり座右ざうに千枚どうしかな
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
思ふこと書信に飛ばし冬籠ふゆごもり
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
さがしものして片づけて冬籠ふゆごもり
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
冬籠ふゆごもり障子隔てゝ人の訪ふ
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
耳とほき浮世の事や冬籠ふゆごもり
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
冬籠ふゆごもり書斎の天地狭からず
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)