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其處此處
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そここゝ
其處此處には
救助を
求むる
聲たえ/″\に
聽ゆるのみ、
私は
幸に
浮標を
失はで、
日出雄少年をば
右手にシカと
抱いて
居つた。
こゝに
於て、はじめは
曲巷の
其處此處より、やがては
華屋、
朱門に
召されて、
其の
奧に
入らざる
處殆ど
尠く、
彼を
召すもの、
皆な
其の
不具にして
艷なるを
惜みて、
金銀衣裳を
施す。
至極そゝくさと
落つき
無きが
差配のもとに
來りて
此家の
見たしといふ、
案内して
其處此處と
戸棚の
數などを
見せてあるくに、
其等のことは
片耳にも
入れで、
唯四邊の
靜とさはやかなるを
喜び
甲板の
其處此處には
水兵の
一群二群、ひそ/\と
語るもあり、
樂し
氣に
笑ふもあり。
武村兵曹は
兩眼をまん
丸にして
……
瞳は
水晶を
張つたやうで、
薄煙の
室を
透して
透通るばかり、
月も
射添ふ、と
思ふと、
紫も、
萌黄も、
袖の
色が
𤏋と
冴えて、
姿の
其處此處、
燃立つ
緋は、
炎の
亂るゝやうであつた。