仰々ぎょうぎょう)” の例文
いやに儀式ばった挨拶あいさつを来る人たちへいられたり、着たくもない妙な仰々ぎょうぎょうしい着物を着せられるのであるそれが泣くほどつらかった。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
そこには予期した通り、いや予期以上の仰々ぎょうぎょうしさで、百貨店の珍事が報道してあった。二面の大半がその激情的な記事でうずまっていた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それが、一同ついの鼠いろの木綿袷もめんあわせに浅黄の袴、足半あしなかという古式の脚絆きゃはんをはいているところ、今や出師すいしの鹿島立ちとも見るべき仰々ぎょうぎょうしさ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
仰々ぎょうぎょうしいのねえ、お前は! そんな筈はありませんよ。栗林さんにも新井さんにも私から呉れ/″\も頼んであるんですもの」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
お松は何のことだかわかりませんで、ただこの女のお客が自分を見て仰々ぎょうぎょうしい表情をしたことを、少しくおかしく思いながら
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
頼長はそれをひと目見て、彼女の僭上せんじょうを責めるよりも、こうした仰々ぎょうぎょうしい姿にいでたたせた兄忠通の非常識に対して十二分の憤懣いきどおりを感じた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ぐっとばしたまつろう手先てさきへ、春重はるしげ仰々ぎょうぎょうしく糠袋ぬかぶくろ突出つきだしたが、さてしばらくすると、ふたたっておのがひたいてた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
如何なる名探偵といえども、絶対に歯を立て得ない迷宮事件の核心を作るものは、外ならぬこの「純粋犯罪心理」……とか何とか仰々ぎょうぎょうしく吹き立ててあった。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
仰々ぎょうぎょうしい旗さし物だの、家の紋だのを、背中にさして戦うのは、名誉慾のしるしをかかげているようなものだ。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あのように仰々ぎょうぎょうしさと費用とをもってした南洋探険隊〔英国のサー・ジェームス・ローズが率いた一八三九—四三年の遠征〕の意味したことは結局、精神世界には
チベット人はいつも嘘をいたり仰々ぎょうぎょうしい事を言うのが癖で、もし途中でこのお方は法王の侍従医だなんて、仰々しい事を言われるとかえってさまたげになるだろうと思い
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
仰々ぎょうぎょうしく言出いいだすと、かたき髑髏しゃれこうべか、毒薬のびんか、と驚かれよう、真個まったくの事を言ひませう、さしたる儀でない、むらさききれを掛けたなりで、一しゃくずん一口ひとふり白鞘しらさやものの刀がある。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
福徳の大神おおかみに祟られた物狂いでも踊っているか、さもなければ迂闊うかつ近江商人おうみあきゅうどが、魚盗人うおぬすびとに荷でもさらわれたのだろうと、こう私は考えましたが、あまりその騒ぎが仰々ぎょうぎょうしいので
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
警部モロは、電話で相手とはなしながら、長官アンドレ大佐に、仰々ぎょうぎょうしい目配せをした。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
酔いの残っている範覚は、こう云うと仰々ぎょうぎょうしく胸を張り、金剛杖をつきらして見せた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
看護婦が二人おりますでしょう? 仰々ぎょうぎょうしく二人置いてあるわけではないのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
悲しくった、浪路にして見れば、一たん、そこからのがれて来た、松枝町の三斎屋敷になきがらを持ちかえされて、仰々ぎょうぎょうしく、おごそかなはぶりの式を挙げられようより、いのちを賭けた雪之丞の
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
私は物堅いのに少し驚ろいて、そして出しなに仰々ぎょうぎょうしいとは思いながら、招待の紋服を着て来たことを、自分で手柄に思った。娘もこの間の宴会帰りとは違った隠し紋のある裾模様すそもようをひいている。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
児戯に類した点や、わざとらしい感激や、言葉身振り態度の仰々ぎょうぎょうしい虚偽などに、彼はいかにも恥ずかしい気がして、管絃楽を指揮しながらも時々、指揮棒を振り上げる力がなくなるほどだった。
鬼婆で名高い浅茅あさじヶ原に近いだけに、鬼娘の噂がそれからそれへと仰々ぎょうぎょうしく伝えられて、残暑の強いこの頃でも、気の弱い娘子供は日が暮れると門涼かどすずみに出るのを恐れるようになった。
半七捕物帳:23 鬼娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのほか、日傘ひがさをかざすもの、平張ひらばりを空に張り渡すもの、あるいはまた仰々ぎょうぎょうしく桟敷さじきを路に連ねるもの——まるで目の下の池のまわりは時ならない加茂かもの祭でも渡りそうな景色でございます。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「左様なことはこちらの知ったことではない、それしきのことに、斯様かよう仰々ぎょうぎょうしく多勢が打連れて参るのは、かみを怖れぬ振舞、表沙汰に致すとその分では済ませられぬ、今のうちに帰れ、帰れ」
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この仰々ぎょうぎょうしさが彼には困惑なのである。男山の奇禍はかたく口止めしておいたのに、もうすべてに洩れているらしい。おおいがたい激昂が彼らにみえる。それが尊氏には心にそむくものらしい。
最前の若者が謝礼心れいごころでしたに相違ないことを無下むげ退しりぞけるのも仰々ぎょうぎょうしい……といってこれはまた、何という念入りな計らい……年に似合わぬ不思議な気転……と思ううちに又しても異妖な前髪姿が
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「それは女である。しかも若い女である」と帆村は仰々ぎょうぎょうしく云った。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この晩、調べに来た役人というのは仰々ぎょうぎょうしいものでありました。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さてはと思ったのみで、仰々ぎょうぎょうしく立ち騒ぎもしなかった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)