いさゝ)” の例文
そこにあの女をまつたく人目に觸れること無しに住はせ、その場所の不健康なことにもいさゝかのおそれを抱かず、森の眞中にそんな備へをして
これはいさゝかながら、そのおよろこびのしるしまでに差上げるのですが、何卒どうそこれらの品々を御受納なされて、よき初春をお迎えになって下さい
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
宿やど入口いりくち井戸川ゐどがはつて江戸川えどがはをなまつたやうな、いさゝかものしさうなながれがあつた。ふるはしかゝつてた。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして何時ものやうに上眼遣うはめづかひでヂロリ/\學生の顏を睨𢌞ねめまはして突ツ立ツてゐるのであるから、學生等は、畏縮といふよりはいさゝか辟易のてい逡巡うぢうぢしてゐる。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
神酒おみきいさゝかでも、氣の合つた親分子分は自分達の話に醉つて、いつかは陶然とした氣持になつてゐたのです。
「最も近代性があって、それから」と考えながら、「いさゝかユーモアのある犯罪だね」
青服の男 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
いさゝかにても國家こつか支配權しはいけん完全くわんぜんおよんでらぬとるときは最早もはや國際法こくさいほふ原則げんそくなにもあつたものでい、つてもらぬかほに、先占せんせんひとてたるはたをば押倒おしたをして、自國じこく國旗こくきひるがへ
其所へ引据させ一通り吟味ぎんみに及びし處文右衞門は元より潔白けつぱく武士さぶらひゆゑいさゝかもつゝかくさず新藤市之丞より返濟へんさいしたる金子のわけ又久兵衞が百兩の云懸いひがかりをなし盜賊たうぞくの惡名をおはせんとしたるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「失礼ですけれども、これを和尚さんにさし上げたいと思ひまして……。私が心がけて、この間から洗つたり縫つたりしたものです。何うか、私のいさゝかばかりのこゝろざしだけを納めて下さいませ。」
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
独立の思想なく、唯社会の潮勢につれて浮沈するが如き人物は、日本の国運を支ふるに於て何か有ん、心にいさゝかの平和なく、利奔名走、汲々として紅塵こうぢん埃裏あいりに没頭し、王公にび、鬼神にへつら
文「これ/\親父殿おやじどの、これはいさゝかであるが、ほんのお礼の印だ」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わたくしじつは、この使命しめいの十ちう八九まではげらるゝことかたきをつてる、また、三年さんねん以來いらいしたしんで、ほとんど畜類ちくるいとはおもはれぬまであいらしくおもこの稻妻いなづまに、いさゝかでも辛苦しんくせたくないのだが
松本は余り唐突だしぬけなのでいさゝか面喰っている検事に向って云った。
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)