いう)” の例文
後代手本たるべしとて褒美ほうびに「かげろふいさむ花の糸口」というわきして送られたり。平句ひらく同前どうぜん也。歌に景曲は見様みるようていに属すと定家卿ていかきょうものたまふ也。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
清八は得たりと勇みをなしつつ、圜揚まるあげ(まるトハ鳥ノきもいう)の小刀さすが隻手せきしゅに引抜き、重玄を刺さんと飛びかかりしに、上様うえさまには柳瀬やなせ、何をすると御意ぎょいあり。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そもそも人ノ身ニ何ガ第一ノ宝ニテ有ケル、——人ノ身ニハ隠蓑トいう物コソよき宝ニテ有ベケレ、食物ホシキト思ハヾ、心ニ任セテ取テンズ、人ノ隠テ云ハン事ヲモキヽ
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
貞丈あんずるに、一銭切というは、犯人に過料銭を出さしむる事ならん。切の字は限なるべし。其過料を責取るに、役人を差遣さしつかわし、其犯人の貯へ持たる銭を有り限り取上る。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
「あの坊さんが、村に入って来ると、きっと誰か死ぬる。」という噂のあった事をも忘れはしなかった。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
中野君はどういうものか容易に坐らない。片手を椅子の背にたせて、立ちながら後ろから、左右へかけて眺めている。多くの人の視線は彼の上に落ちた。中野君は平気である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ゆえにいう、時節到来すといえども、その時節は、けっして喜ぶべき時節にあらざるなり。
諳厄利亜アンギリアの人、紀行の書を見るに千八百十六年(文化十三丙子年)九月にあたる月琉球国にいたりし条に(中略)またいう、アルセスト(船舶の名なり)吏の長の婦おほく陸にありしに
千緒万縷せんちょばんる胸に霞のいろ/\と乱れた耳元へ、二階から漏来る小歌の笑い声、もしや客は黒の羽織というのではあるまいか、小歌の何かではあるまいかと思うと、ひとりでに二階が睨まれ
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
殿下は陸軍騎兵附の大佐で、かくれもない馬好ですから、御寵愛ちょうあいのファラリイスという亜刺比亜アラビア産を種馬として南佐久へ御貸付になりますと、さあ人気が立ったの立たないのじゃ有りません。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それまでに疑われうとまれたる身の生甲斐いきがいなし、とてもの事方様かたさまの手におしからぬ命すてたしというは、正しく木像なり、あゝら怪しや、さては一念の恋をこらして、作りいだせしお辰の像に、我魂のいりたるか
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
余は目科が何の目的にて屋捜せんと欲するにや更に合点行かざれど無言のまゝ控ゆるに倉子は快よく承諾し「はいそうして疑いを晴せて戴く方が私しも何れほど有難いか知れません」といういなや其衣嚢かくし
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
松王まつおうと行逢ひ、附け廻りにて下手にかはる、松王が「ありのはひる」といふ処「相がうがかはる」などという処にて思入し、「身替のにせ首」にて腹に応へし模様見え「玄蕃げんばが権柄」にてはつと刀をさし
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
歌ちゃんあの方のお名前を知って居るかえ、いゝえ知らないよ過日このあいだ鳴鳳楼で大勢の時お目に懸ったばかり、伺って御覧な、何とかいうんだっけ、こすいよと笑いながらまた連立てあがって来たが
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
その木像まで刻むというは恋に親切で世間にうと唐土もろこしの天子様が反魂香はんごんこうたかれたよう白痴たわけと悪口をたたくはおまえの為を思うから、実はお辰めにわぬ昔とあきらめて奈良へ修業にいって、天晴あっぱれ名人となられ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
兎に角自分のうちには羅紗緬類似の女は一人も居ません(荻)イヤサ家に居無くとも外へかこって有れば同じ事では無いか(大)イエ外へ囲って有れば決して此通りの犯罪は出来ません何故というまず外妾かこいものならば其密夫みっぷと何所で逢います(荻)何所とも極らぬけれどそう
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)