上眼うわめ)” の例文
そうしたら部屋のむこうに日なたぼっこしながら衣物きものを縫っていたばあやが、眼鏡めがねをかけた顔をこちらに向けて、上眼うわめにらみつけながら
碁石を呑んだ八っちゃん (新字新仮名) / 有島武郎(著)
するとある折、綽名あだなをバテレンとも神父サンとも呼ぶ髯面ひげづらの老工員が、ぼくを上眼うわめごしでジロと見、「よしな。おめえは」と、ぼくを睨んだ。
そっと上眼うわめづかいに、その後ろ姿を見送っているところから見ると、この覆面の侍は、よほど大作の上役……ないしは主筋に当たる人らしい。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そして警官が目をそこへやったとき、男の死体が、上半身をつつーッと起こしたかと思うと、警官の方へ顔を向け、上眼うわめでぐっとにらんだのである。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「珍らしいこと」おりうはすぐに盃を持ち、上眼うわめづかいに安宅を見た、「やっぱりなにかいいことがあったのね」
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それは今の今までつつましやかにうつむいていた伊奈子が大きな眼で上眼うわめづかいに私を見て、頬をポッと染めながらニッコリと笑って見せたからであった。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
サヨサヨ、ヘエ、サヨサヨとつづけざまに上眼うわめをしてお辞儀じぎをしていたが、子供と三人の中へはさまれて
「そこに蒲団ふとんがある」と三沢は上眼うわめを使って、室のすみを指した。自分はその眼の様子と頬の具合を見て、これはどのくらい重い程度の病気なんだろうと疑った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこで、上眼うわめを使って、弟子の僧の足にあかぎれのきれているのを眺めながら、腹を立てたような声で
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
細い眼で老眼鏡の上から上眼うわめ使いをしながら、歯のない口をモグモグさせて物を言う様子は、何か不思議な鳥類のように見えた。おそらく七十歳をくだらぬ老年である。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
観世銀之丞は起き上がろうともせず、畳の上へ肘を突き、それへ頭を転がしながら、面白くもないというように、ましらましらと上眼うわめを使い、商人の様子を眺めていた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「あなたなんぞは一番さきに触れてあるいた方ですわ。」と、花吉は上眼うわめで安井君を睨んだ。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と言ったその上眼うわめつかいで、お雪ちゃんの記憶が、お銀様の方へよみがえって来ました。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
上眼うわめをつかってあおのけになって居るから、はてなこれは変死だなとく見ると、自分の縁類なる東浦賀の大ヶ谷町おおがやまちの吉崎宗右衞門と云う名主役の娘おみわで、浦賀で評判の美人だから
光子さんだけは何や独りで面白そうに笑いなさって、「どないしたん? 栄ちゃん。あんたけったいな人やなあ」いいながら、むずかしい顔してる綿貫の方を意味ありそうに上眼うわめにらんで
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
老人はちょっと顔をあげて眼鏡めがねの上から上眼うわめで政雄の顔をすかすようにした。
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
こう言って僕は相手の顔を挑発するように上眼うわめづかいで見た。
或る探訪記者の話 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
いつもより恐ろしそうに、そして、上げることもゆるされない首のように、地に低く垂れたまま、じっと、馬のつま先だけを、上眼うわめで見ていた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帳場と呼ばれた男はその事なら飲み込めたという風に、時々上眼うわめにらにらみ、色々な事を彼れにただした。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
看護婦はすでに帰ったあとなので、へやの中はことにさみしかった。今まで蒲団ふとんの上に胡坐あぐらをかいていた彼は急に倒れるように仰向あおむきに寝た。そうして上眼うわめを使って窓の外を見た。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
姉は上眼うわめを使いながら、かんざしまげの根をいていたが、やがてその手を火鉢へやると
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「だからおれはいま、——」喜兵衛は上眼うわめづかいに天床を見上げ、唇をめて、ひょいと片手を振った、「おい、よけえなことを云うから話のつなぎが切れてしまった、冗談じゃない、ええと」
霜柱 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「おッ。親分」と、細い手をからませて、上眼うわめにじっと見ていたかと思うと、そのまぶたからポロポロと男泣きの熱いなみだ……。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御米は返事もせずに、しばらく黙っていたが、細いあごえりの中へめたまま、上眼うわめを使って
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
母の枕もとの盆の上には、大神宮や氏神うじがみ御札おふだが、柴又しばまた帝釈たいしゃく御影みえいなぞと一しょに、並べ切れないほど並べてある。——母は上眼うわめにその盆を見ながら、あえぐように切れ切れな返事をした。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
がまのごとき姿態のうちにあぶらをたらして野蛮な勇を用意しながら、身に寸鉄もおびられてはいぬ宮の白いお姿を、上眼うわめづかいにうかがうほかの念慮ではない。
おとっさんは額にしわを寄せて上眼うわめを使いながら、頭をで廻す。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
じらしてやろうという気と、隙を計る心支度こころじたくとで、孫兵衛は、上眼うわめづかいに腕ぐみをしていた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あいよ」お綱は札を指ではじいて「よくもこう縹緻きりょうの悪い手ばかり付く……」と、一枚手から抜きかけたが、ちょっと考える様子をして、何の気もなく上眼うわめづかいに天井を見た。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
指を小布こぎれで巻きながら、お吉はそれへ上眼うわめを送ったが、黙って、顔を振ってみせた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と思ったが、誰もいないので、ただ眸を以て、上眼うわめづかいに枕元を見まわすと、官兵衛はとたんに、ぎくとした容子であった。それは何かあやしげなものでも見たときのようなおどろき方に似ていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あまり老公が念を押すので、羅門は、形ばかりに、そっと上眼うわめをあげた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)