一粒種ひとつぶだね)” の例文
父親ちちおや相当そうとうたか地位ちい大宮人おおみやびとで、狭間信之はざまのぶゆき母親ははおやはたしか光代みつよ、そして雛子ひなこ夫婦ふうふなか一粒種ひとつぶだねのいとしだったのでした。
文武天皇は妃も皇后もめとらず、宮子は実質上の皇后だったが、天皇は二十五で夭折した。首皇子即ち聖武天皇はその一粒種ひとつぶだねであった。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
しかし……しかし伊那丸いなまるさまは大せつな甲斐源氏かいげんじ一粒種ひとつぶだね、あわれ八まん、あわれいくさの神々、力わかき民部の采配さいはいに、無辺むへんのお力をかしたまえ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ああ、小雪! 今こそ、房枝は、自分の本名が小雪であったことをはっきりとさとったのである。そして自分が、あのやさしい彦田道子夫人の一粒種ひとつぶだねであることを知ったのであった。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
去年ちょうど今時分、秋のはじめが初産ういざんで、お浜といえばいさごさえ、敷妙しきたえ一粒種ひとつぶだね
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まことに申兼ねますが、一粒種ひとつぶだねの伜一人を助けると覺召して、お願ひでございます
六部ろくぶはそれから道々みちみちも、人身御供ひとみごくうげられるかわいそうなむすめのことや、大事だいじ一粒種ひとつぶだねられていく両親りょうしんこころおもいやって、人知ひとしれずなみだをこぼしながら、やがてむらを出はずれました。
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
思い設けぬ自分の一粒種ひとつぶだねの登というものを見ると、今まで曾て経験しなかった、現在、血をわけた親身しんみというものの情愛を思い知ると共に、この子の母としてのお君という薄命な女のために
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
千代は絶えなんとする渋江氏の血統を僅につなぐべき子で、あまつさえ聡慧そうけいなので、父母はこれを一粒種ひとつぶだねと称して鍾愛しょうあいしていると、十九歳になった安永六年の五月三日に、辞世の歌を詠んで死んだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
十九歳の美子姫は、侯爵の一粒種ひとつぶだね、婦人雑誌、写真画報などで、姫の容姿に接したものは、その名状めいじょうがたきあどけなさ、不思議な魅力をたたえた、夢見る如きまなざしに、うっとりせぬ者はなかった。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
はは袈裟代けさよ、これは加納家かのうけからとついでまいりました。両親りょうしんあいだにはおとこはなく、たった一粒種ひとつぶだねおんながあったのみで、それがわたくしなのでございます。
そして一った以上いじょう、たとえ一粒種ひとつぶだね大事だいじむすめでも、七日なのかのうちには長持ながもちれて、よるおそくおやしろまえまでかついでいって、さしげるとすぐ、あとかえらずにかえってなければなりません。
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そうするうちにポックリと、てんにもにもかけがえのない、一粒種ひとつぶだね愛児あいじ先立さきだたれ、そのままわたくしはフラフラとがふれたようになって、なん前後ぜんごかんがえもなく、懐剣かいけんのどいて