一昨年おとゝし)” の例文
あれは、お前のお友達にと思つて、一昨年おとゝし、湧山さんからいたゞいたんですよ。種類は忘れたけれど、ちやんと素性のわかつた犬です。
犬は鎖に繋ぐべからず (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
私ゃア今こう成ったッても、昔の事を忘れない為に、今でもこうやって木綿物を着て夜延よなべをしている位なんだ、それにまだ一昨年おとゝしの暮だっけ
和田英作畫伯ぐわはくとは一昨年おとゝし春頃はるころしよ球突塲たまつきばはじめて御面識ごめんしきた。そして、一時はやつぱり近しよんでをられた小宮先生をまじへて、三ともゑ合戰がつせんまじへたものだつた。
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
五十けんによき得意塲とくいばもちたりとも、内證ないしようくるま商賣しようばいものゝほかなればせんなく、十三になれば片腕かたうで一昨年おとゝしより並木なみき活版所かつぱんじよへもかよひしが、怠惰なまけものなれば十日とうか辛棒しんぼうつゞかず
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
幸「だから無闇に喋舌しゃべっちゃアいけねえてんだ、掛合かゝりあいに成るよ、此の事に付いて一昨年おとゝし大変に難儀をした者があるんだよ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しばしやどかせはるのゆくひくるもみゆ、かすむゆふべの朧月おぼろづきよに人顏ひとがほほの/″\とくらりて、かぜすこしそふ寺内じないはなをば去歳こぞ一昨年おとゝしそのまへのとしも、桂次けいじ此處こゝ大方おほかた宿やどさだめて
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
長煩い故病院へ入れる事も出来ませんようになったので、仕方なく私はこんな処へ這入りましたが、その甲斐もなく一昨年おとゝしの十一月なくなりましたよ
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
昨日きのふ川田かはだやがみせでおちやつぴいのお六めと惡戲ふざけまわして、たくもない往來わうらいへまでかつしてちつたれつ、あんないた了簡りようけんすゑげられやうか、まあ幾歳いくつだとおもふ三十は一昨年おとゝし
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
たけの文庫にはういう物が入っているか見たいナ成程たまかな女だ、一昨年おとゝしつかわした手拭てぬぐいがチャンとしてあるな、女という者は小切こぎれの端でもチャンと畳紙たとうへいれて置く位でなければいかん
父の一昨年おとゝしうせたる時も、母の去年うせたる時も、心からの介抱にるも帯を解き給はず、き入るとては背をで、がへるとては抱起だきおこしつ、三月みつきにあまる看病を人手ひとでにかけじとおぼめしうれしさ
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)