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ききふ
然るに、あの
川は
決して
淺くはなかつた。
流れも
思ひの
外早かつた。
次第に
依つては
命を
奪はれんとも
限らなかつた。その
危急の
際中根はどう
云ふ
事をしたか。
今更事の
危急な勢ひに、平次はゾツと總毛立ちましたが、お靜を
匿した場所はまるで見當が付きません。
それより
海岸の
家は
沸くが
如き
騷ぎで、
種々評議の
結果、
此危急を
救ふには、
輕氣球を
飛ばすより
他に
策は
無いといふ
事に
定つたが、
氣球を
作る
事は
容易な
業ではない、
幸にも、
材料は
甞て
然るに、
中根は
身の
危急を
忘れて
銃を
離さず、
飽くまで
銃を
守らうとした。あの
行爲、あの
精神は
正に
軍人精神を
立派に
發揚したもので、
誠に
軍人の
鑑である。
此塲合に
第一に
私の
胸をうつたのは、
此航海のはじめネープルス
港を
出づる
時、
濱島に
堅く
約して、
夫人と
其愛兒との
身の
上は、
私の
生命に
懸けてもと
堅く
請合つた
事、
今、
此危急の
塲合に
臨んで
一
體中根は
平素は
決して
成績佳良の
方ではなかつた。
己も
度度嚴しい
小言を
云つた。が、
人間の
眞面目は
危急の
際に
初めて
分る。
己は
中根の
眞價を
見誤つてゐた。