麦酒ビイル)” の例文
旧字:麥酒
ミユンヘン麦酒ビイルの産地だけに大きな醸造ぢやうが幾つも有つての醸造ぢやうでも大きな樽からすぐ生麦酒なまビイルさかづきいで客に飲ませるのであるが
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それは久米の発見によれば、麦酒ビイル罎の向うに置いてある杯洗はいせんや何かの反射だつた。しかし僕はなんとなしにきようを感ぜずにはゐられなかつた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一条の滝があつて、その茶店でまた麦酒ビイルをひつかけてゐると、せばいいのに小せんが、でて来た大きな蟇蛙がまがへるへ石をぶつけた。
落語家温泉録 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
己のうたいし ことのはのかずかずは 乾酪チイズのごと 麦酒ビイルのごと 光うしないて よどみはてしは わがこころのさまも かくありなんとの あかしなるべし
口業 (新字新仮名) / 竹内浩三(著)
麦酒ビイル硝子杯コップ一呼吸ひといきに引いて、威勢よく卓子テエブルの上に置いた、愛吉は汚れた浴衣の腕まくりで、遠山金之助と、広小路の麦酒ビイヤホールの一方を領している。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三人ともそば麦酒ビイルのコツプを控へてゐる。縁のそばの土の上には手桶が一つ置いてあつて、それに麦酒瓶が冷してある。小男がをりをり三人のコツプに麦酒を補充する。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
おつと、麦酒ビイルかい、頂戴ちようだいなべは風早の方へ、煮方はよろしくお頼み申しますよ。うう、好い松茸まつだけだ。京でなくてはかうは行かんよ——中が真白ましろで、庖丁ほうちようきしむやうでなくては。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ソロドフニコフは倶楽部に行つて、玉を三度突いて、麦酒ビイルを三本勝つて取つて、半分以上飲んだ。それから閲覧室に這入つて、保守党の新聞と自由党の新聞とを、同じやうに気を附けて見た。
保吉はこのあいだも彼のうしろに、若い海軍の武官が二人、麦酒ビイルを飲んでいるのに気がついていた。その中の一人は見覚えのある同じ学校の主計官しゅけいかんだった。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
だ何かの野菜の太い根を日本の風呂ふきの様にした物だけが気につた。酒も酒精アルコホルを抜いた変な味の麦酒ビイルが出た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
しばらくすると、息つぎの麦酒ビイルに、色を直して、お町が蛙の人魂の方を自分で食べ、至極尋常なのは、皮をがして、おじさんに振舞ったくらいであるから。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この時すぐに目を射たのは、机の向側にえびす麦酒ビイルの空箱がたてに据えて本箱にしてあることであった。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
更に麦酒ビイルまんを引きし蒲田は「血は大刀にしたたりてぬぐふにいとまあらざる」意気をげて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
昼間歩行あるき廻った疲労つかれと、四五杯の麦酒ビイルの酔に、小松原はもう現々うとうとで、どこへ水差を置いたやら、それは見ず。いつまた女中が出てったか、それさえ知らず。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かのゲエテの希臘ギリシヤと雖も、トロイのたたかひの勇士の口には一抹いつまつミユンヘンの麦酒ビイルの泡のいまだ消えざるを如何いかにすべき。歎ずらくは想像にもまた国籍の存する事を。(二月六日)
酒舗バアの奥の一隅では目を赤くして麦酒ビイルを傾けながら前夜から博奕ばくちを引続き闘はして居る一団がある。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
彼人々は余がとも麦酒ビイルの杯をも挙げず、球突きのキユウをも取らぬを、かたくななる心と慾を制する力とに帰して、かつあざけり且はねたみたりけん。されどこは余を知らねばなり。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
惺然はつきりあそばせよ。麦酒ビイルでも召上りませんか、ねえ、さうなさいまし」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「ええ、どしゃ降りの時、気がつきましたわ。私、おじさんの影法師かと思ったわ。——まだ麦酒ビイルがあったでしょう。あとで一口めしあがるなぞは、洒落しゃれてるわね。」
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
羊蹄ブラッドワアトの葉を一枚、麦酒ビイルにまぜて飲むと、健康を恢復すると云う秘法を教えてやったそうである。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
酒はと問われて、大村は麦酒ビイル、純一はシトロンを命じた。大村が「寒そうだな」と云った。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
昼間歩行あるき廻った疲れが出た菅子は、髪も衣紋も、帯も姿もえたようで、顔だけは、ほんのりした——麦酒ビイルは苦くて嫌い、と葡萄酒を硝子杯コップに二ツばかりの——えいさえ醒めず
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ彼の知っているのは月々の給金きゅうきんを貰う時に、この人の手をると云うことだけだった。もう一人ひとりは全然知らなかった。二人ふたり麦酒ビイルの代りをする度に、「こら」とか「おい」とか云う言葉を使った。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
寒さは寒し、なるほど、火を引いたような、家中寂寞ひっそりとはしていたが、まだ十一時前である……酒だけなりと、頼むと、おあいにく。酒はないのか、ござりません。——じゃ、麦酒ビイルでも。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
愛吉は胸紐を巻込んで、懐に小さく畳んで持って来た、来歴のあるかの五ツ紋を取出して、卓子の上なる蘇鉄そてつの鉢物の蔭に載せた、電燈の光はその葉をすかして、涼しげに麦酒ビイル硝子杯コップに映るのである。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)