風呂場ふろば)” の例文
みんなそろった時に、また番頭さんが迎えに来て、こんどは体操だ。風呂場ふろばの脱衣場みたいな、がらんと広い板敷の部屋に通された。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
二階の部屋に納まったころ、入口で葉子たちと女中との話し声がしていたが、下の風呂場ふろばへおりて行った時分には何の気配もしなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ドゥニャーシャ お風呂場ふろばで寝てらっしゃいますよ、あすこに陣どってしまってね。お邪魔になっちゃ悪いからな、ですって。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そして、店座敷へ引き返して来て見ると、景蔵、香蔵の二人はお民にすすめられて、かわるがわる風呂場ふろばの方へからだをあたために行っていた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その間にアマが風呂場ふろばの用意をします。彼女は起きて、真っ先に風呂へ這入り、湯上りの体を又しばらく横たえながら、マッサージをさせます。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
するつもりで、船のりになったんです。私は、この船に乗った最初の日から、風呂場ふろばのないことでも、ストライクがやれると考えていたのです
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
自分はすぐに顔を洗いに行った。不相変あいかわらず雲のかぶさった、気色きしょくの悪い天気だった。風呂場ふろば手桶ておけには山百合やまゆりが二本、無造作むぞうさにただほうりこんであった。
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
風呂場ふろばを経て張り出しになっている六畳と四畳半(そこがこの家を建てた主人の居間となっていたらしく、すべての造作に特別な数寄すきが凝らしてあった)
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
烟りは椿つばきはなびらずいからまつてたゞよふ程濃く出た。それをしろ敷布しきふうへに置くと、立ちがつて風呂場ふろばへ行つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
すぐに三毛をかかえて風呂場ふろばにはいって石鹸せっけん洗滌せんじょうを始めたが、このねばねばした油が密生した毛の中に滲透しんとうしたのはなかなか容易にはとれそうもなかった。
子猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
お千代はれたことなので、別に驚きもせず言うなり次第に風呂場ふろばへ連れられて行った。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
菅笠すげがさは街道のほこりに赤うなって肌着はだぎ風呂場ふろばしらみを避け得ず、春の日永きなわてに疲れてはちょううら/\と飛ぶに翼うらやましく、秋の夜はさびしき床に寝覚ねざめて、隣りの歯ぎしみに魂を驚かす。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そこで様子を聞くとこの宿屋の風呂場がちたとのことで、一体その風呂場ふろばは二階にありますがシンガポールの家は随分二階と下の間が開いて居りましてほとんど一じょうもあるように見受けます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そこも磯屋の庭つづきではあったが、すぐ勝手や風呂場ふろばに近くて、おんなや下男が多勢立ち働いているのが、あけ放した水口の腰高障子こしだかのなかに見えていた。たきぎを割る音や茶碗ちゃわんを洗う音もしていた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
風呂場ふろばから町内中に響き渡るように怒鳴っております。
公用商用のためこの都会に集まるものを泊めるのが旨としてあって、家には風呂場ふろばも設けず、膳部ぜんぶも台所で出すくらいで、万事が実に質素だ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
庸三は言わるるままに廊下をわたって、風呂場ふろばの方へ行った。天井の高い風呂場は、化粧道具の備えつけられた脱衣場から二三段降りるようになっていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
持っている方の女がきれいにいてあげるという風で足袋たび一つはくのにも風呂場ふろばでからだを洗うのにもほとんど自分の手というものは使わないのでござりました。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
夜中にお手洗いに起きて、お玄関の衝立ついたてそばまで行くと、お風呂場ふろばのほうが明るい。何気なくのぞいてみると、お風呂場の硝子戸ガラスどが真赤で、パチパチという音が聞える。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
浴衣ゆかたのまま、風呂場ふろばへ下りて、五分ばかり偶然と湯壺ゆつぼのなかで顔を浮かしていた。洗う気にも、出る気にもならない。第一昨夕ゆうべはどうしてあんな心持ちになったのだろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分が風呂場ふろばへはいる時によくいっしょにくっついて来る。
備忘録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
綺麗きれい風呂場ふろばや化粧室などの設備のあるところとか、日本風の落着きのいい部屋や庭のあるところとか、世間から隔絶されたひそやかな場所に潜んでいることが
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それによって私はあの山地のほうにできかけている農家の工事が風呂場ふろばを造るほどはかどったことを知った。なんとなくのみつちの音の聞こえて来るような気もした。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
下へ降りるやいなや、いきなり風呂場ふろばへ行って、水をざあざあ頭へかけた。茶の間の時計を見ると、もう午過ひるすぎなので、それを好い機会しおに、そこへわって飯を片づける事にした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
来たてに台所と風呂場ふろばの手入れをしたりしていたところから見ると、借家ではなさそうでもあった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
多くの江戸の旅人宿と同じように、十一屋にも風呂場ふろばは設けてない。半蔵らは町の銭湯へ汗になったからだを洗いに行ったが、手ぬぐいを肩にかけて帰って来るころは、風も静まった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
叔父は、なに大丈夫大丈夫と受合って風呂場ふろばの方へ行った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この父は四月の発病以来、ずっとくつろぎのたり起きたりしている。その部屋は風呂場ふろばに近い。家のものが入浴を勧めるには都合がよい。一方は本陣の囲炉裏ばたや勝手に続いている。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
抱えに悪智慧わるぢえをつけるばあやも、もういなくなり、銀子は仕込みをつかって、台所をしているのだったが、大抵のことは親爺おやじが自身でやり、シャツ一枚になって、風呂場ふろばの掃除もするのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
自分は顔を洗いに風呂場ふろばへ行った。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)