頭取とうどり)” の例文
この店は従妹いとこが婿を取って、現に履物組合の頭取とうどりを勤めている。私は玉子を土産に持って行って、下駄を貰って帰って来たものだった。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その時には箕作麟祥みつくりりんしょうのお祖父じいさんの箕作阮甫げんぽと云う人が調所の頭取とうどりで、早速さっそく入門を許してれて、入門すれば字書をることが出来る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
徒党の頭取とうどりになったものも、どう扱いますかさ。ひょっとすると、この事件は尾州藩で秘密に葬ってしまうかもしれません。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
当時勝三郎は東京座頭取とうどりであったので、高足弟子こうそくていしたる浅草森田町もりたちょうの勝四郎をして主としてその事に当らしめた。勝四郎は即ち今の勝五郎である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
長々しく昔をのみ語るの愚を笑ふなかれ。当時楽屋口を入りて左すれば福助松助のしつあり右すればすぐに作者頭取とうどり部屋にして八百蔵やおぞうの室これに隣りす。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
お涌自身の家は下町の洋服業組合の副頭取とうどりをしてゐて、家中が事務所のやうに開放され、忙しく機敏な人たちが、次々と来て笑ひ声や冗談をたやさなかつた。
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
車内に納まっている中老紳士は、千万長者と聞えた、布引ぬのびき銀行の取締役頭取とうどり、布引庄兵衛しょうべえ氏だ。この人にしてこの自動車、この運転手、さもあるべきことだ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
『どこかで、お見かけしたようだの。……はてな? ……拙者は、松代藩の学問所頭取とうどり、佐久間修理じゃが』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その貰って来た金は巡査中の頭取とうどり(コーチャクパ即ち警部にあらずして三十人の巡査部長のごときもの)に渡して、その中から月に幾らといって銘々分けてもらいますので
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
梅廼屋うめのやは前にもまうしましたとほり、落語家らくごかとう寄合茶屋よりあひぢややで、こと当時たうじわたくし落語家らくごか頭取とうどりをしてりましたから、ためになるお客と思ひもしまいが、早速さつそく其車そのくるまてくれました。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
頭取とうどりをしていた蔵前の柳枝りゅうし師匠(その時分は下谷の数寄屋町にいましたが)にも話してくれて、さっそく燕花という名に改められ、前座をしないですぐ二つ目に、私は昇進してしまいました。
初看板 (新字新仮名) / 正岡容(著)
そのうちに頭取とうどりける、弟子達でしたちあつまるで、たおれた太夫たゆうを、鷺娘さぎむすめ衣装いしょうのまま楽屋がくやへかつぎんじまったが、まだおめえ、宗庵先生そうあんせんせいのおゆるしがねえから、太夫たゆう楽屋がくやかしたまま
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「村」という雑誌に書いた「苗忌竹なえいみたけの話」は、不十分ながらそれを説こうとしたものであった。島根広島二県の間に行われる大田植には、サゲと称する田人たびと頭取とうどりが、高い杖を携えて出場する。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
木戸番が頭取とうどりに耳打ちをしました。
この詐欺の一件は丹後宮津の高橋順益たかはしじゅんえきと云う男が頭取とうどりであったが、私は元来芝居を見ない上に、この事を不安心に思うて
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
今じゃ江戸へお帰りになって、昌平校しょうへいこう頭取とうどりから御目付(監察)に出世なすった。外交がかりを勤めておいでですが、あの調子で行きますと今に外国奉行でしょう。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その渋沢栄一と並んで、道場の模範生だった土肥庄次郎は、藩の近習番頭取とうどり、土肥半蔵の長男だった。いつも、鈍々どんどんとして、竹刀しないを持っても、間のぬけたところがある。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところかずなりません落語家社会はなしかしやくわいでも、三いうしや頭取とうどり円生ゑんしやう円遊ゑんいうまうしまするには、仮令たとへ落語家社会はなしかしやくわいでも、うか総代そうだいとして一名は京都きやうとのぼせまして、御車みくるまをがませたいものでござりますが
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
銀行会社は重役頭取とうどりより下は薄給の臨時雇のものに至るまで申合せたるやうに白き立襟の洋服を手に扇子せんすをパチクリさせるなり。保険会社の勧誘員新聞記者また広告取なぞもこれにならふ。
洋服論 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
寛一さん、商売と学校はまるっきり違うよ。わしのような横文字も碌々ろくろくに読めない者でも組合の頭取とうどりが相応勤まって行く。金儲けは又別さ。融通が利いて堅ければ宜い。その上に学問があれば尚お結構だ。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
江戸に召しかえされてからの先生は昇平校しょうへいこうという名高い学校の頭取とうどりを命ぜられ、上士じょうしの位に進み、さらに鑑察かんさつといってだれでもうらやむ重い役目をつとめることになりました。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
戊辰ぼしん前に洋行したという噂のある渋沢栄一も帰朝して、一頃ひところ、静岡の紺屋町に商法会所を創立して頭取とうどりとなっていたが今では新政府の官員になって東京に羽振りをきかせているという。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
講武所生徒の銃隊長と同じ刀鎗とうそう隊長とが相談の上、各隊の頭取とうどりを集めて演説し、銃隊は先発のことに、刀鎗隊は将軍警備のことに心得よと伝えたところ、銃隊は早速さっそくその命令に服したが
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)