あらざ)” の例文
やはらげらるゝにあらざればいと強くかゞやくが故に、人たる汝の力その光に當りてさながら雷に碎かるゝ小枝の如くなるによるなり 一〇—一二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
何らの気焔きえんぞ。彼はこの歌に題して「戯れに」といいしといえども「戯れ」の戯れにあらざるはこれを読む者誰かこれを知らざらん。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
罪人にあらざる者が何故に白状したるや是れ二人とも合点の行かぬ所なれどは目下の所にて後廻しとする外無ければ先ず倉子の事より考うるに
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
いやしく寸毫すんがうも世に影響なからんか、言換ふれば此世を一層善くし、此世を一層幸福に進むることに於て寸功なかつせば彼は詩人にも文人にもあらざるなり。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
古来妙齢の哲学者青年の文学者に乏しからずといへども未だ弱冠の史学家あるを聞かざるは理なきにあらざるなり。
史論の流行 (新字旧仮名) / 津田左右吉(著)
道衍おのれの偉功によってもって仏道の為にすとわんか、仏道明朝みんちょうの為に圧逼あっぱくせらるゝありしにあらざる也。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
露西亜が議会を有せんこと、余り遠き将来にあらざるべし、諸君をうらやむの間も、けだし暫時ならんか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
然いふ譯なら此事は秒時しばらく吾儕にお任せなさい彼近所へゆき夫とはなく病が有かあらざるかを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「冬猫もまた細心の注意を要す。函館はこだて付近、馬肉にて釣らるる危険あり。特に黒猫は充分に猫なることを表示しつつ旅行するにあらざれば、応々黒狐くろぎつねと誤認せられ、本気にて追跡さるることあり。」
これらは初学者の学びやすきものにあらざれば例外として言はず。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
曙覧は汚穢おわいを嫌はざりし人、されど身のまはりは小奇麗こぎれいにありしかと思はる。元義は潔癖の人、されど何となくきたなき人にはあらざりしか。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そはこれ場所を占むるにあらず、軸をつにあらざればなり、われらの梯子はしごこれに達し、かく汝の目より消ゆ 六七—六九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
流行の学術は恐くはこれ真の学術にあらざるなからんか。而も見よ書籍の出版、学校の設立、雑誌の発刊、学生の趨向すうこうその変遷する所を推してしかして称するに流行を以てす必しも不可なるに非ず。
史論の流行 (新字旧仮名) / 津田左右吉(著)
つぐなうとあれば聖人せいじんおきてにも有事なり然らばあし御政事ごせいじにてはなきと决せり又非學者ひがくしやなんじていはく文王は有徳うとくな百姓町人のつみけいにあらざるものを過料くわれうさせて其金銀を以て道路だうろにたゝずみ暑寒しよかん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
然れども人類は斯の如き者にあらざるなり、英雄の行為は時として尋常の外に飛び出づることあり、時勢は人を作る者なれども、人も亦時勢を作る者也。歴史家の眼中は決して人物を脱すべからざる也。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
元義の歌は醇乎じゅんこたる万葉調なり。故に『古今集』以後の歌の如き理窟と修飾との厭ふべき者を見ず。また実事実景にあらざれば歌に詠みし事なし。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
なしたる物もあらざれば盜賊たうぞくの業ならず遺趣切ゐしゆぎりならんと思ふ所へ大師河原へ泊りに行し母のおかつは歸り來り夫と見るより死骸しがい取附とりつき前後不覺ふかくさけびしがさて有る可きにあらざれば此おもむきをうつたへ出檢視けんし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
文字に書きたる信条の謂にあらざる也。ソクラテスは彼れの信条の為めに亜典アテネの獄中に死せり。パウロは彼の信条の為めに羅馬に死せり。許多の殉教者は其信条の為めに石にて打たれ、火にてかれたり。
信仰個条なかるべからず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
「古くなつて木が乾くに従ひつて来る」とあれども反椀は初より形の反つた椀にて、古くなつて反つた訳にはあらざるべし。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
けだし彼に不平なきにあらざるもその不平は国体の上における大不平にして衣食住に関する小不平に非ず。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
新字とはいへ、仮名にも羅馬字にもあらざる全く別種の文字を製造するはいたずらに奇を好む者にして何の利益もなかるべければ、まさかにかかる考を有する人はあらざるべし。
病牀譫語 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
もし各自の随意に待遇する者とせんか。これ国家に規律なき者にして立憲政体の本意にあらざるなり。もし大本営一定の命令を下して各軍師団各兵站部等これを奉ぜざる者とせんか。
従軍紀事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
 朝顔のつるが釣瓶に巻きつきてその蔓を切りちぎるにあらざれば釣瓶を取る能はず、それを朝顔に釣瓶を取られたといひたるなり。釣瓶を取られたる故に余所よそへ行きて水をもらひたるといふ意なり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
世人多くは曰く好んで字餘りの句を爲すは徒に新を弄し奇をげんする者なりと。何の言ぞや。彼等は針小の眼孔を以て此貴重なる韻文を自己の狹隘なる感情の範圍内に置かんと欲する者にあらざるを得んや。
字余りの和歌俳句 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
上品にあらざるもなほ名句たるを失はず。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)