青芒あおすすき)” の例文
すると、そこから少し離れたところの一本松、その松の根元の青芒あおすすきから、ムックリ身を起こした侍が、こっちへ足を運んできながら
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とまた言い掛けたが、青芒あおすすきが川のへりに、雑木一叢ひとむら、畑の前を背かがみ通る真中まんなかあたり、野末のもやを一呼吸いきに吸込んだかと、宰八唐突だしぬけ
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その畜生ちくしょうに落されるとは、何かの因縁いんねんに違いございません。それは石橋の少し先に、長い端綱はづなを引いたまま、路ばたの青芒あおすすきを食って居りました。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
片側の大名邸の高い土堤の上に茂り重なるはぎ青芒あおすすきの上から、芭蕉の広葉が大わらわに道へ差し出て、街燈の下まで垂れ下がり、風の夜は大きな黒い影が道一杯にゆれる。
やもり物語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
白き猫今あらはれぬ青芒あおすすき
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
夜はけた。露ふりこぼす河原の青芒あおすすきに、そよそよと吹く風も冷たい。するとそこへ、ざッと水を切って来た一艘の屋形船がある。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青芒あおすすきの茂った、葉越しの谷底の一方が、水田に開けて、遥々はるばると連る山が、都に遠い雲の形で、蒼空あおぞらに、離れ島かと流れている。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
保吉は突然身震みぶるいをしながら、クッションの上に身を起した。今もまたトンネルを通り抜けた汽車は苦しそうに煙を吹きかけ吹きかけ、雨交あめまじりの風にそよぎ渡った青芒あおすすき山峡やまかいを走っている。……
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
道ばたのがけ青芒あおすすきの中に一本のならの木が立っている。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
井戸がえもしたなれど、不気味じゃで、誰も、はい、その水を飲みたがりませぬ処から、井桁いげたも早や、青芒あおすすきにかくれましたよ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黒髪をわけたような青芒あおすすきの武蔵野をう一すじの青梅街道を、三ツ木、上宿と、二里ばかりあるくと、田無だった。
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、近づく道誉の姿を見つけると、具行は、青芒あおすすきそよぎの中で、ただ一つのそよがない趺坐ふざ石仏せきぶつのごとく、硬直して、きっと相手をにらまえていた。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから青芒あおすすきの線をのばして、左へ離れた一方に、一叢立ひとむらだちやぶがあって、夏中日も当てまい陰暗く、涼しさは緑の風を雲の峰のごとく、さと揺出ゆりだし、揺出す。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いちめんな青芒あおすすきに蔽われている低地へ、さらに、たてを囲い、一部に、とばりめぐらしなどして、ぐるりと、守り堅めている武者も、雑兵とはちがい、見るからに皆
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なだらかにもと来た片原の町はずれへ続く、それをななめに見上げる、山の高き青芒あおすすきわらびの広葉の茂った中へ、ちらりと出た……さあ、いくつぐらいだろう、女の子のあかい帯が
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
不意に、ひとむらの青芒あおすすきの中から、むッくりと、身を起した若い侍——それは春日新九郎であった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紅地金襴べにじきんらんのさげ帯して、紫の袖長く、衣紋えもんに優しく引合わせたまえる、手かさねの両の袖口に、塗骨の扇つつましく持添えて、床板の朽目の青芒あおすすきに、もすそくれないうすく燃えつつ
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かみへすすむほど、川幅も狭くなって、岸の両側から青芒あおすすき千種ちぐさの穂が垂れ、万吉のさおにあやつられる舟の影が、薄暮の空を映したなめらかな川面を、水馬みずすましのようにすべってゆく。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
綱もあり、立樹もあり、大きなびくも、またその畚の口と肩ずれに、船を見れば、苫いたり。あの位高かった、丘は近くかしらに望んで、崖の青芒あおすすきも手に届くに、婦人おんなたちの姿はなかった。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
全軍へは「休メ」の号令がかかり、兵は急に、そのへんの青芒あおすすきを大鎌でバラバラ刈った。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かたわら青芒あおすすき一叢ひとむら生茂おいしげり、桔梗ききょう早咲はやざきの花が二、三輪、ただ初々ういういしく咲いたのを、つぼみと一枝、三筋ばかり青芒を取添とりそえて、竹筒たけづつに挿して、のっしりとした腰つきで、井戸から撥釣瓶はねつるべでざぶりと汲上くみあ
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここへ来て、命ぜられるまま、輿を、青芒あおすすきのなかへ下ろした。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)