雜巾ざふきん)” の例文
新字:雑巾
「褒められるほどの心掛けでもありせんが、今朝もちよいと丁寧に雜巾ざふきんを掛け過ぎて、この通りまだ板仕切も椽側も濡れて居ります」
ほそはりほどな侏儒いつすんぼふしが、ひとつ/\、と、歩行あるしさうな氣勢けはひがある。吃驚びつくりして、煮湯にえゆ雜巾ざふきんしぼつて、よくぬぐつて、退治たいぢた。
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
午過ひるすぎかへつてると、御米およね金盥かなだらひなか雜巾ざふきんけて、六でふ鏡臺きやうだいそばいてゐた。其上そのうへところだけ天井てんじやういろかはつて、時々とき/″\しづくちてた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
祖母さんを御覽なさい、支店長の母親でありながら袖口の擦り切れた着物を着て、この寒さにも自分で雜巾ざふきん掛けなんぞしてゐるぢやありませんか。
孫だち (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
すれば、かうなってしまうたうへは、あの若殿わかとの嫁入よめいらッしゃるがいっ分別ふんべつぢゃ。おゝ、ほんに可憐かはいらしいおかた彼方あなたくらべてはロミオどのは雜巾ざふきんぢゃ。
自分の家の玄關の沓脱くつぬぎのある『タタキ』を、毎朝、自分で、雜巾ざふきんがけをする、そのかはり、そこからはいかなる人でもはひりをさせない、といふやうな事を、私は、誰からとなく、聞いた。
「鱧の皮 他五篇」解説 (旧字旧仮名) / 宇野浩二(著)
「聲を掛けても返事はないし、少し心配になりましたので、ザツと入口の雜巾ざふきんで足を拭いて、濡れてボトボトしづくの垂れるまゝ、奧へ入つて見ると——」
いつぞや、同國どうこくひともとにて、なにかのはなしとき鉢前はちまへのバケツにありあはせたる雜巾ざふきんをさして、ひと金澤かなざはんとつたかおぼえてゐるかとふ。わすれたり。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かれあか無言むごんまゝはたらかしながら、馬尻ばけつなか雜巾ざふきんしぼつて障子しやうじさんした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
血を雜巾ざふきんか何かにひたして、二合半こなから坂の春日邸下になすつたり、石垣を熊手か何かで引つかいて、あわよくば春日邦之助を無實の罪におとしいれ、自分は何時までもきれいなお孃さんと
小六ころく實際じつさいこんなようをするのを、内心ないしんではおほいに輕蔑けいべつしてゐた。ことに昨今さくこん自分じぶんむなくかれた境遇きやうぐうからして、此際このさい多少たせう自己じこ侮辱ぶじよくしてゐるかのくわんいだいて雜巾ざふきんにしてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「たうとう垂れ流しやがつた。仕樣のねえ野郎だ、——お靜、雜巾ざふきんだよ」
「往來の血も——翌る朝、見に參りましたが、ほんのおまじなひ程で、それも雜巾ざふきんでなすつたやうになつて居りました。こゝで人が突き殺されたのなら、あんなバカなことがあるものでせうか——それに」