間々あいだあいだ)” の例文
街道の方を見ると、並木の松の間々あいだあいだに、乳牛院の原の方から慕って来た群衆が、蛾のように並んで、こっちをながめている。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雨戸の外は五月雨さみだれである。庭の植込に降る雨の、鈍い柔な音の間々あいだあいだに、亜鉛あえんといを走る水のちゃらちゃらという声がする。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その内男も着物を着替えたが、部屋よりそとへは出ないで、ひるになるまで長椅子ながいすの上に寝転んで、折々微笑ほほえんだ。その間々あいだあいだにはうとうとしていた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
成島柳北なるしまりゅうほくが仮名まじりの文体をそのままに模倣したり剽窃ひょうせつしたりした間々あいだあいだに漢詩の七言しちごん絶句をさしはさみ、自叙体の主人公をば遊子ゆうしとか小史とか名付けて
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
男は泣きじゃくりの間々あいだあいだに、幾度となく彼女の名を呼んだ。そして、彼の一方の手は、大きな昆虫の様に、五本の足で百合枝の全身をはい歩いた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いろいろの書物ほんを読んでくれたよ。間々あいだあいだ間々には越中めが、世間話をしてくれたっけ。わしはすっかり吃驚びっくりしてしまった。ひどく浮世はセチ辛いそうだな。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
御米はただ結構でございますとか、おめでとうございますとか云う言葉を、間々あいだあいだはさんでいた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
間々あいだあいだには恩着せがましいことをいって、王室との関係を誇示したり、華やかな生活の背後うしろで、虚飾と陰険の爪を研いでいる、上流社会特有の円滑な言い廻しの示唆であった。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
かか広野ひろの停車場ステエションの屋根と此のこずえほかには、草より高く空をさえぎるもののない、其のあたりの混雑さ、多人数たにんずふみしだくと見えて、敷満しきみちたる枯草かれくさし、つ立ち、くぼみ、又倒れ、しばらくもまぬ間々あいだあいだ
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
長い竹藪の間々あいだあいだには、ありとあらゆる魑魅魍魎ちみもうりょうが、ほのかな隠し電燈の光を受けて、或はよこたわり、或はたたずみ、或はうずくまり、或は空からぶら下っていた。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
輝く初夏しょかの空のした、際限なくつづく瓦屋根の間々あいだあいだに、あるいは銀杏いちょう、あるいはしいかし、柳なぞ、いずれも新緑の色あざやかなるこずえに、日の光のうるわしく照添てりそうさまを見たならば
所々にちいさいを作って話をしているかと思えば、空虚な坐布団も間々あいだあいだに出来ている。芸者達は暫く酌をしていたが、何かささやき合って一度に立ってこん度は三味線を持って出た。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その間々あいだあいだなる椅子いすには裲襠しかけ着たる遊女同じく長柄ながえのコップを持ち、三絃きゐる芸者と打語うちかたれり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして、その間々あいだあいだには、古来の有名な彫刻が、恐しい群を為して密集している。しかも、それが悉く本当の人間なのだ。化石した様に押し黙っている裸体の男女の一大群集なのだ。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこらじゅう夜具箪笥風呂敷包の投出されている間々あいだあいだに、砂ほこりを浴びた男や女や子供が寄りあつまり、中には怪我人の介抱をしたり、または平気で物を食べているものもある。
にぎり飯 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大江山酒天童子おおえやましゅてんどうじ電気人形、女剣舞、玉乗り、猿芝居、曲馬、因果物、熊娘、牛娘、角男つのおとこ、それらの大天幕てんと張りの間々あいだあいだには、おでんや、氷屋、みかんすい薄荷水はっかすい、十銭均一のおもちゃ屋に
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その間々あいだあいだには人も通わぬ断崖がそそり立っていて、わば文明から切り離された、まるで辺鄙へんぴな所だものですから、その様な風変りな大作業が始っても、そのうわさは村から村へと伝わるけで
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
空には朝も昼過ぎも夕方も、いつでも雲が多くなった。雲はかさなり合って絶えず動いているので、時としてはわずかにその間々あいだあいだ殊更ことさららしく色の濃い青空の残りを見せて置きながら、空一面におおかぶさる。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
別に収入の道はなさそうであったが、幾らかたくわえがあると見え、かせぐということをしないで、本を読む間々あいだあいだには、世間の隅々に隠れている、様々な秘密をかぎ出して来るのを道楽どうらくにしていた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかも、彼はその間々あいだあいだには、やはりかの鞭の打擲を続けていたと信ずべき理由があります。何故と云って、静子の項の傷は、六郎氏の死後になって、やっとその痕が見えなくなったのですから。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)