閑暇ひま)” の例文
衣がえをする初夏は、空の気持ちなども理由なしに感じのよい季節であるが、閑暇ひまの多い源氏はいろいろな遊び事に時を使っていた。
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「あっしのことかネ。あっしは、逃げたりなんぞ、するものか。今夜は閑暇ひまになったもんだから、一つ市中へ出てみようと思うんで」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ところが今日はそれほどの閑暇ひまもなし、また考えもまとまっておりません。だから上手であるべき講義も今日に限って存外まずい訳であります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
学生時代の閑暇ひまな日にはつくづくと疲労を感じました。奮闘努力、額に汗して働くといふことはどんなに愉快なことだらうと思つてゐました。
〔編輯余話〕 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
再び大臣邸に寓す 十一月上旬にまたラサ府へ来て前大蔵大臣の別殿に住んで居りましたが、その時分には現任大蔵大臣も少しは閑暇ひまでした。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
もはや帰ってもよい、しかし今日は老僧も閑暇ひまで退屈なれば茶話しの相手になってしばらくいてくれ、浮世の噂なんど老衲わしに聞かせてくれぬか
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
麻雀マージャン聴牌てんぱいを当てるぐらいの事はお茶の子サイサイで、職業紹介欄の三行広告のインチキを閑暇ひまに明かして探り出す。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それでは何でもお考えつきの事を、というと、『私は学校の長としても、一家の主婦としても多忙な身で新聞の種子たねなど考えている閑暇ひまはなかった。』
職業の苦痛 (新字新仮名) / 若杉鳥子(著)
ただ、閑暇ひまさえあれば、堀は、家じゅうを捜して歩くか、庭へ出て樹の根もとにしゃがんで、茫然と空を眺めているかして、らちもなくぼんやりしていた。
(新字新仮名) / 室生犀星(著)
いろいろな不思議を信じた行爲の閑暇ひまにはまた七面鳥を朱欒ザボンのかげに放ち、二三百の白い鉢に牡丹を開かせ、鷄を飼ひ、薔薇を植ゑる事を忘れなかつた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
米、菜の物、煮豆など余るくらい送ってくれた。降蔵らもにわかに閑暇ひまになったから、火きその他の用事を弁じ、米も洗えば醤油しょうゆも各隊へ持ち運んだ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
旅費と閑暇ひまとはかなり持合はせてゐる人達の事とて、それぞれの名所を言ひ伝への文句通りに見物しようといふのだ。石山いしやまには名月の態々わざ/\訪ねて往つた。
余っ程閑暇ひまの時は、東京で病みついたトルストイの本を読んでいた。それから時々は、ぶらぶらと、近くにある世古の滝の霊場にかり旁々かたがた山や畠を見まわった。
忠僕 (新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
それとも、愛人がないので閑暇ひまなんだろうか。どちらにしても、何だか少し気の毒のように思った。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さ「あゝ今二階で化粧みじめえしてりますの、どうせ閑暇ひまだが又何時いつ口が掛るかも知れないから、湯にって化粧けしょうをさせて置くのサ……二階に居りますが何か用が有るのかえ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今度、自分が都へ上ったのも、その伝献の荷駄について上洛いたしたので、無事お役を果したので、帰り途だけ閑暇ひまを賜わって、ひとり見物がてら仙台までもどる途中でござる
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ立ち尽している閑暇ひまな人々は好奇の眼を見開いて道を明けて彼の行動を見守った。
叔父さんは真先きに出来た閑暇ひまを利用して、子供達に蜜蜂の話をして聞かせました。
第四は或る程度の閑暇ひまと、我々を幸福にするやうにそれを利用することである。
趣味としての読書 (新字旧仮名) / 平田禿木(著)
ちやうど、引越しの日に雜誌は校了になり、二三日は閑暇ひまなからだになつた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
けれども閑暇ひまだから、豫備校へだけは行くことにした。そこでの講義は、實力をつけると云ふよりも、如何に能力を活用すべきかを教へる、what よりも寧ろ how の方に重きを置いた。
受験生の手記 (旧字旧仮名) / 久米正雄(著)
これまではすべてをその人に任せて閑暇ひまのある地位にいられたわけであるから、死別の悲しみのほかに責任の重くなることを痛感した。
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「ナニ、閑暇ひまだから、市中へ出る——」髯は、髯をつまんで、苦笑した。「それにしては、すこし、空中も、地上も騒がしいぞ」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いづれ頼むとも頼まぬとも其は表立つて、老衲からではなく感応寺から沙汰を為ませう、兎も角も幸ひ今日は閑暇ひまのあれば汝が作つた雛形を見たし
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
斯の人は又、鷹揚にあごを撫でながら私を前に置いて論語の素讀を授けて呉れたり、閑暇ひまな時には東京の町々だの公園だのを見せに連れて歩いて呉れました。
やはり仏性ほとけしょうの藤六が、閑暇ひまさえあればソンナ善根をしているものと思って誰も怪しむ者なんか居なかった。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「将棊をさすなんて、そんな……そんな閑暇ひまがあるのかい。あんな忙しさうな議論を書きながら。」
あなた方が恋をすれば、それこそ、あらゆる倦怠と閑暇ひまを利用して、清らかに恋し合えるじゃないの。あらゆる悩みなんか、皆んなその中に熔かしこんでしまうようにね。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
いずれ正成の身に閑暇ひまができたら、正成自身奉行して、一堂を寄進し、なお山門の手入れなどもいたしましょうわい。……いやおたがいに、早くそのような日を持ちたいものだが
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夫婦きりで閑暇ひまのありすぎる退屈さが、おりおり訳のわからぬ不快をともなった。女は張り合いのない顔をし、よその赤坊をお湯につれて行ったり、犬や猫を飼ったりして寂しがった。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
閑暇ひまを善用することに成功したからというて、以上の三つの事に於ける失敗を償ふというわけにはいかないが、相当な閑暇ひまとそれを善用することは、確かに幸福な生に対する寄与である。
趣味としての読書 (新字旧仮名) / 平田禿木(著)
昨夕ゆうべも岡本と或所で落ち合って、君のお父さんのうわさをしたがね。岡本もうらやましがってたよ。あの男も近頃少し閑暇ひまになったようなもののやっぱり、君のお父さんのようにゃ行かないからね
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「貴君! 今晩お閑暇ひまぢやなくつて。」
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
卯槌が美しい細工で作られてあるのは、閑暇ひまの多い人の仕事と見えた。またぶりに山橘やまたちばなの実を作ってならせてあるのへ付けてあったのは
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
いずれ頼むとも頼まぬともそれは表立って、老衲からではなく感応寺から沙汰をしましょう、ともかくも幸い今日は閑暇ひまのあれば汝が作った雛形を見たし
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
汝等が要らざる詮議立てして、罪も無き罪人を作る閑暇ひまに、わが如き大悪人を見逃がしたる報いは覿面てきめん。今日、此のところに現はれ出でたる者ぞ。これ見よやつ
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
雁はこの人達のやうに有り余る程な旅費と閑暇ひまとを持合さなかつたのだ。ところが、丁度折よく鴉が三羽そこを通り合はせた。皆は、雁の代りに鴉で辛抱する事にした。
斯の小父さんは手細工が好きで、銀座の夜店からのこぎりかんなの類を買つて來まして閑暇ひまな時には種々な物を手造りにしました。大工の用ひるやうな道具箱までも具へて有りました。
段々聞いて見ると、与次郎は従来から此雑誌に関係があつて、閑暇ひまさへあれば殆んど毎号筆を執つてゐるが、其代り雅名も毎号変へるから、二三の同人のほかれも知らないんだと云ふ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さらば、如何にしたらその閑暇ひまを巧みに利用することが出来ようか。
趣味としての読書 (新字旧仮名) / 平田禿木(著)
そんなわけで、お喜代が、閑暇ひまを見ては稽古に来てくれるのだった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
閑暇ひまと云ひますと。」
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
太鼓までも高欄の所へころがしてきて、そうした役はせぬことになっている公達が自身でたたいたりもしていた。こんなことで源氏も毎日閑暇ひまがない。
源氏物語:06 末摘花 (新字新仮名) / 紫式部(著)
といふので、仲間の美術通や画家ゑかきなどは、血眼ちまなこになつて得意先を駈けづり廻つてゐる。言ふ迄もなく美術通や画家ゑかきなどいふものは、閑暇ひまがある代りに金銭かねが無い連中れんぢゆうである。
物は試しじゃお閑暇ひまの時分に。ちょっとそこらの精神病院。又は学校、図書館あたりで。世界各地の博士や学士が。寄ってたかって研究し出した。キチガイ病気の書物を拡げて。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
老僧が云ふべき事は是ぎりぢやによつて左様心得て帰るがよいぞ、さあ確と云ひ渡したぞ、既早もはや帰つてもよい、然し今日は老僧も閑暇ひまで退屈なれば茶話しの相手になつて少時居てくれ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
良人うちおんなじよ、あなた。近頃じゃ閑暇ひまな人は、まるで生きていられないのと同なじ事ね。だから自然御互いに遠々しくなるんですわ。だけどそれは仕方がないわ、自然の成行だから」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まずみかどのほうへ伺ったのである。帝はちょうどお閑暇ひまで、源氏を相手に昔の話、今の話をいろいろとあそばされた。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
犬養氏が長年の間、閑暇ひま鑑識めがねにまかせてひ集めた書物が、二階の一にぎつしり詰まつた時、氏は目尻を皺くちやにして喜んだが、それを見てたつた一人そつと溜息をいた人がある。
そうかな、何だか上品で、気楽で、閑暇ひまがあって、すきな勉強が出来て、よさそうじゃないか。実業家も悪くもないが我々のうちは駄目だ。実業家になるならずっと上にならなくっちゃいかん。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)