銭金ぜにかね)” の例文
旧字:錢金
「御当家の御親類のお娘子むすめごをお連れ申しただけのことで、それを強請ゆすりかなんぞのように銭金ぜにかねで追っ払いなぞは恐れ入ります」
長「何だか知りませんが、ひとの仕事を疑ぐるというのが全体ぜんてえ気にくわないから持って帰るんです、銭金ぜにかねに目をれて仕事をする職人じゃアございません」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
銭金ぜにかねづくで名乗って来たのじゃござんせん。シガねえ姿はしていても、忠太郎は不自由はしてねえのでござんす。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
いつも銭金ぜにかねのことが頭に引っかかって夢中になるわけには行かなかった。さればといって、世の中に一途の恋、そんなものが無いとは断じられなかった。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「三十両」と町人は胸で算盤をはじいてゐた。逼塞ひつそくした身には三十両といふまとまつた金は有難かつた。だが、銭金ぜにかねには替へ難いと思つて来た自慢の髯である。
○使ふべきに使はず、使ふべからざるに使ふ、是れ銭金ぜにかねの本質にあらずや。疑義を挟むを要せず。
青眼白頭 (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
まあそう云うなよ。ビクトワール、(「813」及び「黒衣の女」参照)上品で、銭金ぜにかねで動かされないものは他には無いからね、そんな時にはいつも婆やを思い出して、骨を
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
「無理して行って来て、また寝こむようなことになると、わずかな銭金ぜにかねにゃ代らないよ」。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
並大抵の芸者にはとても銭金ぜにかねでは出来ない明放あけっぱなしなお千代の様子、それは同じ売女の身をまかすにしても、このお千代ほどその身を根こそぎ勝手自由にさせる女はないと思うと
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ほんというと、家賃くらいは、どうにでもなる。まさかのときにゃ、お宅にでも駈けこめや、玉井さんが、家賃くらいのことはいつでも引きうけてくれる。銭金ぜにかねじゃなかとたい。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
小苦面こくめいに首を傾げて聞いてゐたが、松太郎の話が終ると、『何しろハア。今年ア作が良くねえだハンテな。奈何だべなア! 神様さア喜捨あげ銭金ぜにかねが有つたら石油あぶらでも買ふべえドラ。』
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
銭金ぜにかねはさてかっせえ、だが、足を濡らすは、厭なこんだ。)と云う間もえ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あたしは銭金ぜにかねのことなんか云やあしないよ、とおかねはいつも云った。
「こうなると、銭金ぜにかねのおきゃくじゃァねえ。こちとらの見得みえになるんだ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
それがこの男にとっては今日銭金ぜにかね以上の大きな目的になっているのではなかろうか………とこう私は推測しているのでありますが、そうまで考えることはあまりにも穿うがちすぎた想像かも知れません。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
「よしてくれ、鼻薬なんぞがされると、なお言いにくいや。やくざな弟、ろくでなしな弟。そいつが、たんだ一ぺん。こう兄貴に向って、ちょっぴり威張った顔がしていられるんだ。こいつあ、銭金ぜにかねに代えられねえ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
銭金ぜにかねを湯水につかふ桜かな 月兎げっと
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「ちッ! いいかげん待たせやがるぜ、殿様もあれで、銭金ぜにかねのことになるてえと存外気が長えなあ——できねえもんならできねえで、さっさと引き上げたらいいじゃあねえか。この家ばかりが当てじゃああるめえし。なんでえ! おもしろくもねえ!」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
何が物騒なんでしょう、人には親切で、銭金ぜにかねの切れっばなれはよし、男っぷりだって、まんざらじゃありませんからね。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
舁「何を云うんだ、おらッちは銭金ぜにかねを貰おうと云うんじゃアねえ、てめッちが担ぐというから担げというのだ」
「野暮なこと、いいっこなしよ。銭金ぜにかねで、あたしがやったと思っていなさるの?」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
滝さん、まあ、こうやって、どうするつもりだねえ。いいえ、知ってるさ。私だって、そうだったが、殊にお前さん銭金ぜにかねに不自由はなし、売ってどうしようというんじゃあない、こりゃやまいなんだ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それを人もあろうに、銭金ぜにかねにはあんまり縁の遠かりそうな男が、不意にかつぎ込んで来たのですから、大黒童子が戸惑いをして来たようなものです。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
銭が無ければい、たゞ埋めてんべえなどゝいうさばけた坊様だ、其の代りお経なんどは読めねえ様子だが、銭金ぜにかねの少しぐれえるような事があって困るなら
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
玉脇たまわきがそれくわつかつえいて、ぼろ半纏ばんてんひっくるめの一件で、ああって大概たいがいな華族も及ばん暮しをして、交際にかけては銭金ぜにかねおしまんでありますが、なさけない事には、遣方やりかた遣方やりかたゆえ、身分
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
銭金ぜにかねのことじゃない。男が、いったん、約束したことは破られん」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
第一、この馬が千両からの銭金ぜにかねをつけているかいねえか、それまで見きわめちゃいめえがな。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これ手前てまい銭金ぜにかねを無心に参ったのではないが、村方の商人あきんどが難渋を致す処から再度掛合に参っても侍を権にかい、土民ばらあなどって不法な挨拶をして帰すので、村方の商人あきゅうどが難渋致すによって
それがね、不可いけねえんだ、銭金ぜにかねずくじゃないんだってよ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そりゃ銭金ぜにかねずくではかなわねえけれど頭数あたまかずで来い、憚りながらこの通り、メダカのお日待ひまちのように貧乏人がウヨウヨいるんだ、これがみんなピーピーしているからそれで貧乏人なんだ
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ケチな野郎だな、この銭金ぜにかねという野郎は……
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)