銀泥ぎんでい)” の例文
羽紋をえがいた銀泥ぎんでいを光らせながらズーッと金座の上のほうへ襲いかかって来て、手近のからす凧へ雁木をひっかけはじめた。
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
胡粉ごふんの雪の積つた柳、銀泥ぎんでいの黒く焼けた水、その上に浮んでゐる極彩色ごくさいしきのお前たち夫婦、——お前たちの画工は伊藤若冲いとうぢやくちうだ。
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
二つ折の紙の表に銀泥ぎんでいの水の地の天には桜の花を、地には紫の土を染めだして、だらりに結んだ舞子の後姿がついている。
小品四つ (新字新仮名) / 中勘助(著)
扇のかなめがぐるぐる廻って、地紙じがみに塗った銀泥ぎんでいをきらきらさせながら水に落ちる景色は定めてみごとだろうと思います。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして、先夜の佩刀はいとうを取りよせ、抜いて、上皇のお目にかけた。それは、銀泥ぎんでいを塗った竹光たけみつであったのである。
満月ではなかったが、一点の曇りもないえた月夜で、丘の上から遠く望むと、見渡すはてもなく一面に銀泥ぎんでいいたように白い光で包まれたもいわれない絶景であった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
雪なすうすもの、水色の地にくれないほのおを染めたる襲衣したがさね黒漆こくしつ銀泥ぎんでいうろこの帯、下締したじめなし、もすそをすらりと、黒髪長く、丈に余る。しろがねの靴をはき、帯腰に玉のごとく光輝く鉄杖てつじょうをはさみ持てり。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その文庫というのは、頃合ころあい手匣てばこで、深さも相応にあり、ふた中高なかだかになっていて柔かい円みがついている。蓋の表面には、少し低めにして、おもいきり大きい銀泥ぎんでいの月が出してある。
楠の天井。一間二枚の襖は銀泥ぎんでいに武蔵野の唐紙。楽焼らくやきの引手。これを開きますると八畳のお座敷は南向のまわり縁。紅カリンの床板、黒柿の落し掛。南天の柱なぞ、眼を驚かす風流好み。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
次に見せて下すったのは『宇津保うつほ物語』でした。これは絵入で、幾冊もあって、厚い表紙は銀泥ぎんでいとでもいいますか、すっかり手摺てずれて、模様もはっきりしません。一冊の紙数は幾らもないのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
にかは煮て銀泥ぎんでいかす日の真昼何かしかひそむくらきけはひはも
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
銀泥ぎんでいの帯をほのかに引きて去る杉生の底の一すぢの川
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
日は遠く海の上を照している。海は銀泥ぎんでいをたたえたように、広々とぎつくして、息をするほどの波さえ見えない。
樗牛の事 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彩画をほどこした銀泥ぎんでいの襖、調度の物の絢爛けんらんさ、いま大奥の一間にささやき合っているのは、家綱の寵妾ちょうしょうみちの方と、一人は久しく見えなかった姉の光子てるこの御方だった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
銀泥ぎんでいを置いた扇を何本も舟へ乗せて、月に向って投げるのさ。きらきらして奇麗きれいだろう」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのときれたような真黒な暗夜やみよだったから、そので松の葉もすらすらと透通すきとおるように青く見えたが、いまは、あたかも曇った一面の銀泥ぎんでいに描いた墨絵のようだと、じっと見ながら、敷石しきいしんだが
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ときれたやうな眞黒まつくろ暗夜やみよだつたから、まつもすら/\と透通すきとほるやうにあをえたが、いまは、あたかくもつた一面いちめん銀泥ぎんでいゑがいた墨繪すみゑのやうだと、ぢつながら、敷石しきいしんだが
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
銀泥ぎんでい利休屏風りきゅうびょうぶに、切燈台きりとうだいがチカチカと照り返していた。青螺せいらつぶしの砂床すなどこには、雨華上人うげしょうにんの白椿の軸、部屋の中ほどに厚いしとねを重ね、脇息きょうそくを前において、頬杖をついている人物があった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八百日ゆく遠の渚は銀泥ぎんでいの水ぬるませて日にかゞやくも
芥川竜之介歌集 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
音もなく、銀泥ぎんでいふすまいている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)