かがや)” の例文
そういうかがやかしい日和ひよりを何か心臓がどきどきするほど美しく感じながら、かわいそうなお前の起きてくるのを心待ちに待っていた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
大人か小児こどもに物を言うような口吻こうふんである。美しい目は軽侮、憐憫れんみん嘲罵ちょうば翻弄ほんろうと云うような、あらゆる感情をたたえて、異様にかがやいている。
余興 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
無論それで好いじゃないか。己が死に向って進んで行くのに、あいつが薄赤い顔をして目をかがやかしていなくてはならないというのだろうか。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
やさしい鬼の娘たちに恋をすることさえ忘れたのか、黙々と、しかし嬉しそうに茶碗ちゃわんほどの目の玉をかがやかせながら。……
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
又或人が法然から念珠を貰って夜昼名号を唱えていたが、或時フト竹釘に懸けて置くとその一家が照りかがやいていた。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
けれども、うら若い佛蘭西人の目が、一瞬、異樣にかがやいた。彼は小さな薔薇にくちづけをしたのだつた。さうしていま、その薔薇は彼の胸の上でしづかにしをれてゐるだらう。
それに海近くんでいる人種の常で、秘密らしく大きく開いた、妙にかがやく目をしている。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
人間が睡たくなるというのは、よくよく考えると日光が真上にかがやいて樹のかげが縮まっているような姿に似ている。——そんなときに、わたしはまた明るい暑い庭さきに立って何か考えている。
とかげ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
だが心の中には明るい火がかがやいている。11500
日にかがやける砂のうへにひたひすりよせ
此 かがやきと色とを
五月の空 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そういうかがやかしい日和ひよりを何か心臓がどきどきするほど美しく感じながら、かわいそうなお前の起きてくるのを心待ちに待っていた。
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
私は二階に上がって、隅の方にあった、主のない座布団ざぶとんを占領した。戸はことごとく明け放ってある。国技館の電燈がまばゆいように半空なかぞらかがやいている。
余興 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
三右衛門は治修にこう問われると、昂然こうぜんと浅黒い顔を起した。その目にはまた前にあった、不敵なかがやきも宿っている。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
女の姿は、かがやく霧の中へ隠れてしまって、その霧の中から、女の笑声わらいごえが聞える。幸福の笑声、歓喜の笑声である。そしてその霧が散ってしまうと、女の踊っているのが見える。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
西忍はその前の晩に満月の光かがやいたのが袂に宿ると夢を見てあやしんでいたのに法然が着いたと聞いて、このことだと思い合わせ、薬湯を設け、美膳をととのえ、さまざまにもてなした。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たぶん、さうだらう。太陽は、まるで我々のふるさとの眞夏のやうに、重苦しい。しかし、我々がいとまを告げて出立してきたのは、夏の日だつた。女たちのきものが緑のなかにいつまでもかがやいてゐた。
お姿がかがやいておあらわれなされたのだ。8505
「そうですかしら。」M君はもう見当がつかないような様子をして、ただ窓の向うに白くかがやいている八つが岳のほうを見つづけていた。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
秀麿は別に病気はないのに、元気がなくなって、顔色があおく、目が異様にかがやいて、これまでも多く人に交際をしない男が、一層社交に遠ざかって来た。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼の筐底の古写真は体と不吊合に頭の大きい、徒らに目ばかりかがやかせた、病弱らしい少年を映してゐる。
「もうおしなさいよ。あんまり軽はずみですわ。あしたは早く起きなくてはならないのですから、もうお寝なさいよ。」女は男の頬の赤くなって、目のかがやいているのに気が付いた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
どの宝よりもかがやくのだ。あれ、あの形の美は霊の
私達の不幸はかがやくことだらう!
(旧字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
しかし太陽がかがやいて地上をいくら温めても、前日のこごえからすっかりそれをよみ返らせられないような、高原の冬の日々だった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
黙ってして聞いていた文吉は、詞の切れるのを待って、頭をもたげた。みはった目は異様にかがやいている。そして一声「檀那だんな、それは違います」と叫んだ。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼の筺底きょうていの古写真は体と不吊合ふつりあいに頭の大きい、いたずらに目ばかりかがやかせた、病弱らしい少年を映している。
私は彼女の目がいつになくかがやいているのを認めた。——しかし私はさりげなさそうに、今の小さな叫びが耳にはいらなかったらしい様子をしながら
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
取り上げた皿一枚が五分間も手を離れない。そしてお玉の顔は活気のある淡紅色にかがやいて、目はくうを見ている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼は実際顔の赤い、妙に目ばかりかがやかせた、——つまり猿じみた青年だった。のみならず身なりも貧しかった。彼は冬も金釦きんボタンの制服に古いレエン・コオトをひっかけていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「まあ、あなたでしたの?」菜穂子は漸っとふり返ると、少しやつれたせいか、一層大きくなったような眼で彼を見上げた。その眼は一瞬異様にかがやいた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
お上さんは小さい目をかがやかして、熱心に聞いていたが、この時甘えたような調子でこう云った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
辰子は円卓えんたくの上へのり出したまま、黄色い電燈の笠越しに浅黒い顔をかがやかせていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
まあ彼女たちはどんなに目をかがやかす事だろう……と、そんな事を考えているうちに、ふいと眼頭めがしらの熱くなりそうになった目をいそいで脇へ転じると、其処では
木の十字架 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
彼は海へ張り出した葭簾張よしずばりの茶屋の手すりにいつまでも海を眺めつづけた。海は白じろとかがやいた帆かけ船を何艘なんそうも浮かべている。長い煙を空へ引いた二本マストの汽船も浮かべている。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「うん、おれも仕事をするとなりあ」と私は目をかがやかせながら、元気よく答えた。「うんと散歩もするよ」
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
兎の皮の耳袋みみぶくろをした顔も妙に生き生きとかがやいていた。
寒さ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いないような目つきをしているのにっとお気がつきになると、急に御自分も目をかがやかせられながら
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
彼女はベッドに寝たままそれを受取ると、急に少女らしく目をかがやかせながら、それを読み出した。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
それから約三十分後には、僕は何かかがやかしい目つきをしながら、村を北のほうに抜け出し、平群へぐりの山のふもと、法輪寺ほうりんじ法起寺ほっきじのある森のほうへぶらぶらと歩き出していた。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
やっとその古墳のそばを離れて、その草ふかい丘をずんずん下りてゆくと、すぐもう麦畑の向うに、橘寺のほうに往くらしい白い道がまぶしいほど日にかがやきながら見え出しました。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そうして、来るときは殆どけっこをするようにして突切って来た広い野を、こんどは二人並んでしょんぼりと歩き出した。ところどころにある水溜りがきらきらと西日にかがやいていた。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そんな谷あいの山かげに、他の雑木にまじって、何んの木だか、目立って大きな葉をむらがらせた一本の丈高たけたかい木が、その枝ごとに、白くかがやかしい花を一輪々々ぽっかりと咲かせていた。……
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
小さな落葉松林からまつばやしを背負いながら、夕日なんぞにかがやいている木の十字架が、町の方からその水車の道へはいりかけると、すぐ、五六軒の、ごみごみした、薄汚ない民家の間から見えてくるのも
木の十字架 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
一行はその日の暮、一つの川を真ん中に、薄赤い穂を一面になびかせている或広々とした芒野すすきのを前にしていた。その芒野の向うには又、こんもりと茂った何かの森が最後の夕日にかがやいていた。
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
私達の不幸はかがやくことだらう。
詩集「窓」 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)