貫禄かんろく)” の例文
旧字:貫祿
いつか「首席」が渾名あだなになった。いわば首席の貫禄かんろくがなかったのだ。ふと母親のことや山谷に見せられた怪しい絵のことを想いだすと
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
上座の中央を避けて坐った益山税所は、いつもの煮えきらないのんびりした人に似合わずかなり貫禄かんろくのあるおちついた態度をみせていた。
いさましい話 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
舞台をのぞいて、「何か、こう、貫禄かんろくとでも、いったようなものが在りますね。まるで、別人の感じだ。ああ、退場した。」
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
のち三年にして関脇せきわけの栄位を修め、恰幅かっぷく貫禄かんろくならびにその美貌びぼうから、一世の人気をほしいままにしたということでした。
身長みのたけ九尺六寸といわれる長人孔子の半分位しかない短矮たんわい愚直者ぐちょくしゃ子羔しこう。年齢から云っても貫禄かんろくから云っても、もちろん子路が彼等の宰領格さいりょうかくである。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
成るほど此の男は一廉ひとかどの大名らしい品格と貫禄かんろくとを備えているけれども、何だか優男やさおとこじみていて、二萬の大軍に号令する武門の棟梁とうりょうの威風がない。
逸見利恭は、その正統を受けた人ですから、机竜之助の剛情我慢を見兼ねて控えろとおさえたのは当然の貫禄かんろくがあります。
親分という貫禄かんろくの上に、かなり自省心を強めていた男ですが、こうなるとかれも痴情におどる一個の凡夫にすぎません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしたちのあいだで見うけられる多くのイギリス人の旅客がどうも貫禄かんろくがあり、なかなか偉そうに見え、しかも、この連中だって自分の国に帰れば
子息たちをおおぜい引きつれている大臣は、重々しくも頼もしい人に見えた。背の高さに相応してふとった貫禄かんろくのある姿で歩いて来る様子は大臣らしい大臣であった。
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そしてまたこのの主人に対して先輩せんぱいたる情愛と貫禄かんろくとをもって臨んでいる綽々しゃくしゃくとして余裕よゆうある態度は、いかにもここの細君をしてその来訪をもとめさせただけのことは有る。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
然し、家柄への同情といっても本人に貫禄かんろくがなければ仕方がないので、織田信雄が信長の子供だと云っても実力がなければ仕方がない。万事実力が物を言う戦国時代であった。
家康 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ひとかど商戦の古つわものらしく、かえって貫禄かんろくをそなえているのである。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
家附き娘だけあって、貫禄かんろくはあるし、どこから見たって立派な奥さんだわ。先生は果報者ね。あんな奥さんだったら、養子もまんざらでないでしょう?
春の枯葉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
血つづきのせいかおてつに似て、おおまかな侠気きょうきはだな性分らしく、しかしさすがにおてつよりははるかにおちついた、大きな宿の主婦らしい貫禄かんろくがあった。
契りきぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
はなかけ卜斎ぼくさいの名にそむかず、容貌ようぼうこそ、いたってみにくいが、さすが北越ほくえつ梟雄きょうゆう鬼柴田おにしばたの腹心であり、かつ攻城学こうじょうがく泰斗たいとという貫禄かんろくが、どこかに光っている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さすがは天下の執権、ご威勢もさることながら、おのずからに備わるご貫禄かんろくもまたあっぱれでした。
きれいで、りっぱによくふとっていて、位人臣をきわめた貫禄かんろくの見える男盛りと見えた。院はまだ若い源氏の君とお見えになるのであった。四つの屏風びょうぶには帝の御筆蹟ひっせきられてあった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
いよいよ浜松だ、日本左衛門にっぽんざえもんで売れたところよ。日本左衛門という奴は、また鼠小僧とは貫禄かんろくが違う、あの大将は手下に働かせて自分は働かず、床几しょうぎに腰をかけて指図さしずをしていたもんだ。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いわば、伝統の貫禄かんろくだ。それあるがために、土俵を圧し、国技館の大建築を圧し、数万の観衆を圧している。然しながら、伝統の貫禄だけでは、永遠の生命を維持することはできないのだ。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
三十歳前後に至って始めて顔があかく焼けて来て脂肪しぼうたたえ急に体が太り出して紳士しんし然たる貫禄かんろくを備えるようになるその時分までは全く婦女子も同様に色が白く衣服の好みも随分柔弱にゅうじゃくなのである。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
貫禄かんろくのある立派な殿様ぶりだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
バルザックにも劣らぬ巨匠たる貫禄かんろくを見失い、或る勇猛果敢の日本の男は、かれをカナリヤとさえ呼んでいた。
「とにかくてんでんが、愚痴を並べていてもしょうがねえ」銀太が先住民の貫禄かんろくをみせてこう云った
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
駕籠から降りて鷹揚おうようにいいながら、ずいと店先へはいっていったものでしたから、男まえといい、貫禄かんろくといい、番町あたりの大旗本とでも目きき違いをしたのでしょう。
そうです。御容貌がりっぱでおきれいで、いかにも重臣らしい貫禄かんろくがおありになりますよ。兵部卿ひょうぶきょうの宮は御美貌の点では最優秀な方だと思えますね。女だったら私もあの方の女房になる望みを
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
顔から手頸てくび、指の先に至るまでむっちりと脂肪分の行きわたった色白な皮膚で、目鼻立ちの整った豊頬ほうきょうの好男子であるけれども、肥えているために軽薄には見えず、年相応に貫禄かんろくのついた紳士で
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ひたいあごも両の手も、ほんのり色白くなったようで、お化粧が巧くなったのかも知れないが、大学生を狂わせてはずかしからぬ堂々の貫禄かんろくをそなえて来たのだ。
狂言の神 (新字新仮名) / 太宰治(著)
うしろに若侍をふたり従えて、がんのくばり、体のこなし、おのずから貫禄かんろく品位の見える老武家です。ずいと静かに、名人右門のほうへ歩みよると、重々しく呼びかけました。
玉鬘は人知れず父の大臣に注意を払ったが、うわさどおりにはなやかな貫禄かんろくのある盛りの男とは見えたが、それも絶対なりっぱさとはいえるものでなくて、だれよりも優秀な人臣と見えるだけである。
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
貫禄かんろくゆたかにどっかと上座へ陣取りながら、なにごとか、なんの詮議かというように怪しみ平伏しつつ迎え入れた方丈をずいと眼下に見下して、おのずからなる威厳もろとも
とても、まともには見られない生活が行列をなし、群落をなして存在している。(一行あき。)貴兄のお兄上は、県会の花。昨今ますます青森県の重要人物らしい貫禄かんろくそなえて来ました。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
さすがに貫禄かんろく品位じゅうぶん、丁重いんぎんに両手をつくと、そらさずにいいました。
日本画家、洋画家、彫刻家、戯曲家、舞踏家、評論家、流行歌手、作曲家、漫画家、すべて一流の人物らしい貫禄かんろくもって、自己の名前を、こだわりなく涼しげに述べ、軽い冗談なども言い添える。
善蔵を思う (新字新仮名) / 太宰治(著)
越後えちごから米つきに頼まれたんじゃあるめえし、こんなちゃちな詮議にのこのことお出ましになりゃ、貫禄かんろくがなくなりますよ、貫禄がね。——え! だんな! ね、ちょっと!——かなわねえな。