見戍みまも)” の例文
今の弾丸たまは当らなかった。だが今度浮いて来たら、と伊藤次郎はじっと海面を見戍みまもっていたが、ふとその眼を流血船へ移したとたんに
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
童子は、すばやく玄関から次ぎの部屋をぬけ、離亭への踏石へおり立とうとしたとき、一軸の仏画が床の間に掛けられてあるのを見戍みまもった。
後の日の童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
東を受けた二階の寝室に、再び意識を失ひかけた下枝子が、医師に見戍みまもられながら、朦朧とした眼を天井に向けてゐた。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
冷静の象徴サムボルのような真名古を、何がこれほどまでに激発させたのか。総監はもとより、四銃士の面々も呆気にとられて、唖然と真名古の面を見戍みまもるばかり。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
今日も今日、父なる燈台守は、やぐらのうえに立って望遠鏡を手にし、霧笛きりぶえならしながら海の上を見戍みまもっていた。
おさなき灯台守 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
二人が見戍みまもっているうちに、法水は長い糸を用意させて、それを外側から鍵孔かぎあなくぐらせ、最初鍵の輪形の左側を巻いてから、続いて下からすくって右側を絡め
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
美しく刺繍をした袍はわしを全くの別人にしてしまつたのである。わしは或型通りにつてある五六尺の布がわしの上に加へた変化の力を、驚嘆して見戍みまもつた。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
笑い/\、そう言うと、長田は興ありそうに聞いていたが、居なくなると言ったので初めて、やや同情したらしい笑顔になって、私の顔を珍らしく優しく見戍みまもりながら
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
言葉の修練を積むに従って詩の天地が開闢かいびゃくする。鶴見はおずおずとその様子を垣間見かいまみていたが、後には少し大胆になって、その成りゆきを見戍みまもることが出来るようになった。
うまうまと自分の陋劣ろうれつ術數たくらみだまされた不幸な彼女の顏が眞正面に見戍みまもつてゐられなかつた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
「これを見たまえ」深井が受け取って読むのを、平一郎も息をはずませて見戍みまもっていた。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
「そいつあ困ったね。」と太い眉を寄せて、私の顔を見戍みまもっていたが、「じゃ、当分まあわっしの物でも食ってたらどうだね。そのうちに何とかまた、国へ帰るような工夫でもするさ。」
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
グリフォンはすわみ、兩眼りやうがんこすつて、えなくなるまで女王樣ぢよわうさま見戍みまもり、それから得意とくいげに微笑ほゝゑみました。『なん滑稽こつけいな!』とグリフォンは、なか自分じぶんに、なかあいちやんにひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
……なんの色もない、うつろな眼であった。彼はまじまじと月心尼の顔を見戍みまもっていたが、やがて寂しそうに首を振りながら云った。
春いくたび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
呼吸いきを引きとるその日も、しびれの来た手を重たげに扱ひながら、朝の化粧をすませ、新聞の一面へざつと眼を配る動作を私は黙つて見戍みまもつてゐた。
妻の日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
そう言って、凝然じっとして見戍みまもっている児太郎は、しだいに、その眼底に髣髴ほうふつする焦燥をありありと燃え立てさせた。弥吉は、からだのすくみを感じた。
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
其間も彼女は、溢るゝ許りの愛情の微笑ほゝゑみをもらして、わしをぢつと見戍みまもつてゐるのである。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
「そうら……本当に?」女はにや/\笑いながら、油断なく私の顔を見戍みまもった。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
はる/″\故郷を出てきた少年を見戍みまもりいたわっているようだった。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
男は酒をいでやりながら、じっと三次のようすを見戍みまもっていたが、飲終って返す盃をぜんの上へ置くと、将棋盤を二人のあいだへ引寄せて
暗がりの乙松 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おあいは、吃驚びっくりしすぎて、声も出ないで凝然と見戍みまもっていた。が、すぐに自分の夫であるかどうかさえ気疑いが起っていちどきは悪感をさえかんじた。
(新字新仮名) / 室生犀星(著)
吾平はそう思いながら、歯の根も合わず見戍みまもっていたが、やがて、自分の危険に気付くと夢中で其処そこを逃げだしてしまった。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それと同じいように女もなかば眠って、ものうげに折々眠元朗を見戍みまもるだけだった。
みずうみ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
いつも独りで工場裏のあしの生えた沼地のへりに立っているか、または工場主の鶏舎の前にかがみこんでにわとりの動作をつくねんと見戍みまもっているらしかった。
蛮人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「さあ、——」主婦は女客の顔を見戍みまもった。
三階の家 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そう云う道之進の眼を、伊兵衛は疑わしげに見戍みまもっていたが、やがてその唇尻にふたたびそっと微笑を刻みながら
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
少しも動ぜず、いささかもてらわず、思うままを流れるように云って憚らぬ団兵衛の態度を、光政はじっと見戍みまもった。
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しばらくその寝姿を見戍みまもっていた大蛇嶽、やがて何を思ったか、掻込かいこんでいた槍を取直すと、団兵衛の胸先へ
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
老人はすっかり着古してすり切れてしまった羅紗らしゃ外套がいとうをひきかけ、すばらしく大きな古い麦藁むぎわら帽子をかぶって身動きもせずにじっと遠く沖のかなたを見戍みまもっていた
麦藁帽子 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
始終のようすを、杉林の中からじっと見戍みまもっていた野火の三次は、次第に色も蒼白め、いつか全身をぶるぶると慄わせていたが、もう我慢ができぬというふうにきっと振返った。
暗がりの乙松 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
宗利はそのとき初めて、老人の眸子が責めるように自分を見戍みまもっているのをみつけた。
松風の門 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)