荊棘けいきょく)” の例文
ところがグージャールは、「ラテン語を知っている」男を相手にしていることを見て取って、用心深く美学の荊棘けいきょく地に立てこもった。
これは勇敢なる兄に対して捧げられた頌徳の辞であるよりも以上に、おろかなる弟が自らの心に加えた荊棘けいきょくの鞭であるからである。
三等郵便局 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
と、協議がまとまって進むことになったが……、これまでどおり、巨草荊棘けいきょくを切りひらいてゆくのではいく月かかるかも知れない。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
しかし多数の読者を導いてこのルクレチウスの花園に入るべき小径の荊棘けいきょくを開くにはぜひともこれだけの露払いの労力が必要であると思った。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
孤君信長をめぐって虎視眈々こしたんたんな一族がたくさんいた。それが、叔父だの兄弟だの身寄りだのという者だけに、荊棘けいきょくひらくのも、敵以上であった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
茶畑のごとき荊棘けいきょくの叢林 があります。それを見渡しますとちょうど宇治の茶畑に行ったような観念が起りまして実に我が国を忍ばれるようでした。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
余は一人とがった巌角がんかくを踏み、荊棘けいきょくを分け、みさきの突端に往った。岩間には其処そこ此処ここ水溜みずたまりがあり、紅葉した蔓草つるくさが岩にからんで居る。出鼻に立って眺める。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一同はフハンのあとについてゆくと、荊棘けいきょくみちをふさぎ、野草が一面においしげて、なにものも見ることができない。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
直言讜議ちょくげんとうぎまずはばからず、時には国王の逆鱗げきりんに触れるほどの危きをも冒し、ますます筆鋒を鋭くして、死に至るまで実利主義のために進路の荊棘けいきょくはらった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
ここには人生の荊棘けいきょくに血を流しうめく声のかわりに、ハックルベリーのの饗宴に充ち足り、想いをガンジスの悠久な流れにはせる、自信にみちた独白がある。
ここには人生の荊棘けいきょくに血を流しうめく声のかわりに、ハックルベリーのの饗宴に充ち足り、想いをガンジスの悠久な流れにはせる、自信にみちた独白がある。
さていよいよ猟場に踏み込むと、猟場は全くみさき極端はずれに近い山で雑草荊棘けいきょくい茂った山の尾の谷である。僕は始終今井の叔父さんのそばを離れないことにした。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そうすれば個人性は出すまいとしても自然に出ます。清新な句ももとめずともできます。ゆめゆめ近道をしようとして荊棘けいきょくにひっかかることをしてはなりません。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そまの入るべきかたとばかり、わずかに荊棘けいきょくの露を払うて、ありのままにしつらいたる路を登り行けば、松と楓樹もみじの枝打ち交わしたる半腹に、見るから清らなる東屋あずまやあり。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
それ火中に蓮花を咲かしめ荊棘けいきょくのうちより葡萄を収穫し、不自由中より自由を生ずるがごとき不可思議の手段に至りては、吾人は実に驚嘆せざらんとするもあたわざるなり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
文角鷲郎もろともに、彼の聴水が教へし路を、ひたすら急ぎ往くほどに、やがて山の峡間はざまに出でしが、これより路次第に嶮岨けわしく。荊棘けいきょくいやが上にひ茂りて、折々行方ゆくてさえぎり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
四年の頃この廃園をあがな荊棘けいきょくを伐り除いて林間に屋宇おくうを築きなづけて六閑堂と称した。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
岡村君にこう云われて、私は水音を便りに荊棘けいきょくの間を分けて泉の縁へ降りて行きました。私は岸辺に彳んで向う側を見渡した時、其処に名状し難い神々こう/″\しさの、美女の立像を認めました。
金色の死 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
で、われ等の仕事が、前途幾多の荊棘けいきょくに阻まれるべきは、元より覚悟の前であらねばならぬ。われ等の啓示は往々にして、未開なる古代人の心を通じて漏らされた啓示と一致せぬ箇所がある。
日夜精神を学問にゆだねて、その状あたかも荊棘けいきょくの上にして刺衝ししょうに堪ゆべからざるのはずなるに、その人の私につきてこれを見ればけっして然らず、眼に経済書を見て一家の産を営むを知らず
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
荊棘けいきょく、密林のことゆえ、これまた一日二日の仕事ではない、とっくりと腹をすえてかからねばなりませぬ、どれが先でも後でもないが、秩序を立てて、この途通ぜざれは再びまみえぬ決心にて
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
見る影もない荊棘けいきょくの曠原となつてゐたのを嘆き自ら植樹に着手した。
沼津千本松原 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
あらゆる荊棘けいきょくを踏みしだいて進む巨人の姿である。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
名のないいくさはしない。まして宗家を攻めるには、義と名分の旗じるしがる。——が彼は、その機会に荊棘けいきょくの一方を、やっと切りひらいたのであった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひいらぎバーベリ等の極寒地方ごくかんちほうに生ずる灌木かんぼくは、いやがうえに密生して、荊棘けいきょくみちをふさいでは、うさぎの足もいれまじく、腐草ふそうやまをなしては、しかのすねも没すべく思われた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
丙は時として荊棘けいきょくの小道のかなたに広大な沃野よくやを発見する見込みがあるが、そのかわり不幸にして底なしの泥沼どろぬまに足を踏み込んだり、思わぬ陥穽かんせいにはまってき目を見ることもある。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
すると、一叢ひとむら荊棘けいきょくの中から、不意にまた、一頭の鹿が躍りだした。帝は手の彫弓ちょうきゅう金鈚箭きんひせんをつがえて、はッしと射られたが、矢は鹿の角をかすめてれた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今が初めての荊棘けいきょくの道ではない。これが最後かと思う一歩前が、実は、次への悠久な道へ出る暁闇ぎょうあんさかいであったことを、幼年の頃から幾度も身におしえられていたからである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして上人の身を荊棘けいきょくの門から抱え出すと、禅閤はまた、一方のわがむこと、いとしい息女むすめとが、事変以来どう暮しているか——それも心がかりでならなかったことなので
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
育て、行く行くは、身みずからの荊棘けいきょくを作るにいたる。——愚かしきかな。笑うべき哉
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
九歳の時董卓とうたくに擁立されて、万乗の御位について以来、戦火乱箭らんせんの中に幾たびか遷都し、荊棘けいきょくの道に飢えをすら味わい、やがて許昌に都して、ようやく後漢の朝廟に無事の日は来ても
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
剣というものの絶対性が——また修行の道というものの荊棘けいきょくには、かかることも踏み越えてゆかねばならないのかと思うと、余りにも自分の行く手は蕭条しょうじょうとしている。非人道的である。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
官を捨て、妻子を捨てて共に荊棘けいきょくの道を覚悟の上で来てしまったのだ。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幼少すでに彼は稀代きたいな空想児だった。だがい育つに従って、荊棘けいきょくの現実は、空想の子を空想の中にのみ夢みさせておかなかった。現実は艱難かんなんまた艱難を与えて、彼に荊棘を切りひらく快味を教えた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしはすすんで荊棘けいきょくへ入る
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)