臨終りんじゅう)” の例文
業平なりひらという人は文芸に優秀なることは言うまでもないが、その人となりについてどれほど根底のたしかな人か知らんが、その臨終りんじゅうになって
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
こんな心懸こころがけくない女子おなご臨終りんじゅう通報しらせが、どうしてひいさまのおもとにとどくはずがございましょう。なにみなわたくしわるかっためでございます。
翁の臨終りんじゅうには、かたちに於て乃木翁に近く、精神に於てトルストイ翁に近く、而していずれにもない苦しみがあった。然し今はつまびらかに説く可き場合でない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
三井君は、死ぬる二、三日前まで、そのように気軽な散歩を試みていたらしい。三井君の臨終りんじゅうの美しさは比類が無い。
散華 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その母親は臨終りんじゅうのときに苦しい息の中から、世にも恐しい秘密を告げたそうです——わしは実はお前の母ではない。
遺伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
なんでも臨終りんじゅうのさいまで、もう一故国ここくかえりたいといっていたことが、会社かいしゃともだちの便たよりでらされると
台風の子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と竹内さんが臨終りんじゅうの模様を話した。病気は腎臓炎だった。通知に接して、島崎さんと菊池さんが駈けつけた。
変人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
王さまは病気びょうきで、もう、この寝床ねどこが、どうやらじぶんの臨終りんじゅうとこになるらしい、と思っていました。
「話を変えようよ。臨終りんじゅうにぶっつかったり、学校の話を聞かされたりしては、いい加減くさるよ」
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
丈「臨終りんじゅうの願いに清次殿、お媒人なこうどとなって、おいさと重二郎どのに婚礼の三々九度、此所こゝで」
わたしたちと一つ屋根の下に住んでいたある貧しい老婆ろうばの、臨終りんじゅうに立ち会ったことがあった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
十年前臨終りんじゅうとこで自分の手をとり泣いて遺命いめいした父の惻々そくそくたる言葉は、今なお耳底じていにある。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
望なき回復をはかるがためいたずらに病苦びょうくを長くするよりも、モルヒネなど与えて臨終りんじゅう安楽あんらくにするこそ智なるがごとくなれども、子とりて考うれば、億万中の一を僥倖ぎょうこうしても
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
臨終りんじゅうの貴人に対して合掌がっしょうしているという群像だった。
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのてん充分じゅうぶんふくみをねがってきます。機会きかいがありましたら、だれかの臨終りんじゅう実況じっきょうしらべに出掛でかてもよろしうございます。
安さんは大抵たいてい甲州街道南裏の稲荷いなりの宮に住んで居たそうだ。埋葬は高井戸でしたと云うが、如何どん臨終りんじゅうであったやら。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
臨終りんじゅうの人の枕もと等で、突然、卑猥ひわいな事を言って笑いころげたい衝動を感ずるのです。まじめなのです。気持は堪えられないくらいに厳粛にこわばっていながら、ふいと、冗談を言い出すのです。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
古今を一貫せる通史つうしの編述こそは彼の一生の念願だったのだが、単に材料の蒐集しゅうしゅうのみで終わってしまったのである。その臨終りんじゅうの光景は息子・せんの筆によって詳しく史記しきの最後の章に描かれている。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「そりゃありますよ」私は、昨年死んだ父の臨終りんじゅうの事を思い出した。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
女房に持ってくださらば心のこさず臨終りんじゅういたす、お聞済きゝずみくだされ
岩屋いわや修行中しゅぎょうちゅうだれかの臨終りんじゅう出会であったことがあるか、とのおたずねでございますか。——それは何度なんど何度なんどもあります。
園内を歩くと、せみのヌケがら幾個いくつも落ちて居る。昨夜は室内で、小さなものゝ臨終りんじゅう呻吟うめきの様なかすかな鳴声なきごえを聞いたが、今朝けさ見ればオルガンの上によわりはてたスイッチョが居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そうして、臨終りんじゅうのお父さんをのどが破れるほど呼びつづけて、それでも、お父さんは、死んじゃったんです。その時の、自分の叫びつづけた声が、いまでも耳について、離れないと言っているんです。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)