膳椀ぜんわん)” の例文
ガラクタと言つても大家で、膳椀ぜんわんも布團も立派に使へるものばかり。土藏へ行くのが面倒で、日用の雜器を此處へ入れて置くのでせう。
つひに玄関より上りたるに、その次の間には朱と黒との膳椀ぜんわんをあまた取り出したり。奥の座敷には火鉢ありて鉄瓶てつびんの湯のたぎれるを見たり。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
先生は書斎においでですからと言いながら、手を休めずに、膳椀ぜんわんを洗っている。今晩食ゆうめしがすんだばかりのところらしい。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すすけた塗り箪笥だんす長火鉢ながひばち膳椀ぜんわんのようなものまで金に替えて、それをそっくり父親が縫立ての胴巻きにしまい込んだ。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
勿論もちろん俳味をもっぱらとする処から大きな屏風びょうぶや大名道具にはふだを入れなかったが金燈籠きんどうろう膳椀ぜんわん火桶ひおけ手洗鉢ちょうずばち敷瓦しきがわら更紗さらさ
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
加うるに膳椀ぜんわんの調度までが、一通り調ととのうて、板についているのは、前にいた人のを居抜きで譲り受けたのか、そうでなければ、お勝手道具一式をそのまま
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
各宿とも旅客用の夜具蒲団ふとん膳椀ぜんわんたぐいを取り調べ、至急その数を書き上ぐべきよしの回状をも手にした。皇軍通行のためには、多数の松明たいまつの用意もなくてはならない。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
従ってそれらの部落で膳椀ぜんわんの代りに木の葉を用いたのが、伝播でんぱしたとも考えられぬ事はない。
梵雲庵漫録 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
新開地を追うて来て新たに店を構えた仕出し屋の主人が店先に頬杖ほおづえを突いて行儀悪く寝ころんでいる目の前へ、膳椀ぜんわんの類を出し並べて売りつけようとしている行商人もあった。
写生紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その裲襠、帯、小袖のあやにしき。腰元のよそおいの、藤、つつじ、あやめと咲きかさなった中に、きらきらと玉虫の、金高蒔絵きんだかまきえ膳椀ぜんわんが透いて、緞子どんすしとね大揚羽おおあげはの蝶のように対に並んだ。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土瓶どびんれたみづつて墓參はかまゐりにつて、それから膳椀ぜんわんみなかへして近所きんじよ人々ひと/″\かへつたのち勘次かんじ㷀然けいぜんとしてふるつくゑうへかれた白木しらき位牌ゐはいたいしてたまらなくさびしいあはれつぽい心持こゝろもちになつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
焼けあとには灰や焼け残りの柱などが散らばっていて、井戸側の半分焼けた流しもとでは、たすきをした女がしきりに膳椀ぜんわんを洗っている。小屋掛けの中からは村の人が出たりはいったりしている。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
佐太郎は気を取りはずせり、彼は満面に笑みの波立て直ちに出で行き、近処に法事の案内をし、帰るさには膳椀ぜんわんを借り燗瓶かんびん杯洗を調ととのえ、蓮根れんこんを掘り、薯蕷やまのいもを掘り、帰り来たって阿園の飯を炊く間に
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
膳椀ぜんわんを買う。蚊帳かやを買う。買いに行くのは従卒の島村である。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
ついに玄関よりあがりたるに、その次の間には朱と黒との膳椀ぜんわんをあまた取り出したり。奥の座敷には火鉢ひばちありて鉄瓶てつびんの湯のたぎれるを見たり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
茶の間に近き六尺は膳椀ぜんわん皿小鉢さらこばちを入れる戸棚となってせまき台所をいとど狭く仕切って、横に差し出すむき出しの棚とすれすれの高さになっている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女達が膳椀ぜんわんなどの取出された台所へ出て行く時分に、やっと青柳の細君や髪結につれられて、お島は盃の席へ直された。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それも気を付けましたが、長押の金具はぎ、ふすまの引手は外し、手洗鉢も膳椀ぜんわんも、その辺の店にあり合せの品を集めたもので、一つも紋のあるのは出しません。
先生は書斎に御出おいでですからと云ひながら、手をやすめずに、膳椀ぜんわんを洗つてゐる。今晩食ゆふめしが済んだ許の所らしい。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)